デイサービスは本人にとっても家族にとっても必要な介護保険サービスだけど、「行きたくない」って高齢者も結構多いみたいだっポ。
サービスを利用してくれないと家族はいろいろ心配だよね……。
<しんやさん(仮名)50歳>
75歳の母親は、要介護2でデイサービスを週3日利用しているのですが、最近デイサービスに行きたがらなくなりました。気の合わない人がいるらしいのです。
私としては、これ以上母親のもの忘れが進んだりしないために、デイサービスへ行って欲しいと思っています。
デイサービスに行かずヘルパーさんに来てもらっても、大半は1人きりで過ごすしかありませんし、母親の様子が気がかりで、家族としても落ち着いて仕事に取り組めません。
どうすればいいでしょうか。
デイサービスに行ってくれないっていうお悩みは、家族だけでは解決が難しいっポ。
デイサービスの利用は、ご家族の介護負担を軽くすることも目的のひとつですが、実はそれだけではありません。
高齢者のご家族にとってはわかりにくい世界かもしれませんが、デイサービスは小さくても「社会」なのです。
そのため他の利用者さんと仲良くなることもあれば、イザコザが起きることもあります。
デイサービスでは、高齢者の生活する力や身体的能力を保つために、ケアマネジャーの計画のもとで利用者個々の計画メニューが立てられています。
その計画には、機能訓練や作業療法、レクレーションといった基本メニューの他に、複数の方と会話し行動を共にするという社会性を保つ大切な目的も、実は組み込まれています。
自宅で過ごすのとは違って、デイサービスに行くのは「社会に出ること」または「社会に復帰すること」と考えるのがピッタリかもしれません。
高齢の方々は長い年月を社会で生活してきて、もしかしたら職場やご近所のような社会から「卒業した」と思っているかもしれません。
そのため、デイサービスで少し気に入らないことがあったり、気の合わない人がいたりすると、「なんで今更こんな面倒な人付き合いをしなくてはならないのか」と消極的な気持ちになってしまうこともあるでしょう。
ときには、認知症の初期で、気に入らないからと攻撃的な言葉や行動に出てしまうこともあります。また、高齢者には年齢相応の理解力低下があり、誤解や勘違いも少なくありません。
そのような理由から、利用者間のトラブルに発展してしまうケースもあるのです。
高齢者がなぜ「デイサービスに行きたくない」と言うのか、考えられる理由はいくつかあります。
高齢者は自宅で過ごす時間が多く、交流の機会が失われていることも少なくありません。そのため、新しい環境や人間関係に不安やわずらわしさを感じて落ち着かないのでしょう。
デイサービスは高齢者が久々に体験できる小さな「社会」です。自宅にいるときとは異なり気を張って過ごすため、慣れるまでに疲れが生じやすくなります。
また、ずっと仕事中心の生活をしてきた高齢者と、日常から地域で人との交流や趣味活動をしていた高齢者では、デイサービスでの時間の使い方に差が出ます。
仕事中心だった男性などは新しいコミュニティへの参加が不慣れです。趣味活動を日常的にしてきた高齢者の方が、デイサービスで充実した時間を過ごしやすいかもしれません。
高齢者の中には夜眠れずに昼寝をしてしまうなど、昼夜逆転の生活をしている方もいます。一人暮らしの高齢者は時間が不規則になりやすく、規則正しい生活から離れてしまった方もいるでしょう。
例えば、昼夜逆転している高齢者にとって、朝9時のデイサービスのお迎えは相当きついものです。
しかしデイサービスの利用時間はケアプランで定められているので、ある程度生活を規則正しくする必要があります。そうすると、自分の生活リズムとは合わずに敬遠したくなるのかもしれません。
デイサービスは、いろいろな人が通いで利用する施設です。多くの高齢者が利用するので、なかには気の合わない人がいても不思議ではありません。
気が合わないと思う理由は人それぞれですが、性格や行動、言葉使いなどが考えられます。
相手が認知症だと気づかずに「コミュニケーションが上手く取れない」と感じ、気が合わないと思ってしまうこともあるでしょう。
デイサービスには、性格や環境、習慣の違う高齢者が集まるので気が合わない人がいる可能性もありますが、逆にいえば仲のよい友人を見つけられるチャンスでもあります。
高齢で介護が必要だからといって、誰もが人からの世話を積極的に受け入れるわけではありません。
介護されるという立場に慣れない上に、高齢の方々の「人様の世話にならない」という昔からの慣習があるからでしょう。
また、認知症の高齢者の場合、「取り繕う」という症状があります。記憶力の低下を周囲に知られるのを恐れ、介護されるのを嫌う方もいます。
それでは、「デイサービスに行きたくない」と高齢のお母さまやお父さまが言い出したときは、どうするべきでしょうか。
順を追って対処するとよいでしょう。
まず担当のケアマネジャーに相談して、デイサービスの生活相談員と話し合う時間を作ってもらいます。
「デイサービスに行きたくない」という理由を探さなくては、改善策も考えられないからです。
高齢者ご本人が「気の合わない人がいるから」と言っていたとしても、実は違う理由があるかもしれません。本当は身体に不調があるのに別の理由をつけているだけ、ということもあり得ます。
ですから、もし気の合わない人が特定されても、それに固執せずに他にも理由がないか慎重に見ていかなくてはならないでしょう。
高齢者にはさまざまな理由や考え方、家庭環境があり、言葉をそのまま受け取っていると、のちのち驚くような身体的な原因が見つかったりします。
精神的な理由から「お腹が痛い」と訴えていると思われた方が、実は異物が詰まっていた、ということもありました。
ご家族を含めた関係者が集まって多方面からの原因や理由を話し合ったら、次にその課題に対して改善できる点を考え、実施していきます。
まず、ご本人から理由として上がっている「気の合わない人がいるからデイサービスに行きたくない」という理由に対して改善します。
この改善策のポイントは距離感です。例えば、気の合わない人との接触が最小限になるように、物理的な距離を作ります。
送迎のバスでは乗り合いや隣の席を避け、作業療法やレクレーションに取り組むときは別のグループにしたりして席を離します。
その過程で、職員はご本人の言葉や行動を制限したり、他の利用者さんを責めたりしません。
デイサービスは、精神的・身体的に機能が低下しないように高齢者が刺激を受ける場所です。教育の場ではありませんから、高齢者に対して言葉や行動をとがめたり指導したりはしないのです。
次に、デイサービスに行きたくない理由が他に考えられる場合についてです。
高齢になると、自分自身の不快感の原因を正確に自覚し、それを的確に表現する力が低下します。ご本人が口にする理由とはまったく違う理由が、本当は潜んでいるのかもしれません。
例えば以前、デイサービスを利用する82歳の女性がいらっしゃいました。
その方は、同じ職員に対して攻撃的な発言をし、「あの人がいるからデイサービスには行かない」などの理由で、デイサービスをたびたび休むようになったのです。
彼女を取り巻く課題を話し合った結果、意外にも改善が必要と判断されたのは入浴時の介助方法でした。
実は入浴時にご本人が望む手順があったのですが、それを職員がしていなかったのです。その後、入浴手順は改善され、デイサービスを休むことがほとんどなくなりました。
ご本人でさえ明確にわからないことを見極め改善するのは大変ですが、1つの理由に固執して的外れな改善策を行うよりも確実でしょう。
高齢の方々は、個々の考えや生き方、感情をもって過ごしています。もし利用者間でトラブルが発生しても、直接相手方やそのご家族に訴えるのは適切ではありません。
何か気になることがあれば、早期に担当のケアマネジャーやデイサービスの生活相談員に相談することをおすすめします。
著者:葦江(よしえ)
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