介護保険はいったいどこへ行くのか? 今後を左右する極めて重要な議論がキックオフを迎えた。
厚生労働省は25日に社会保障審議会・介護保険部会を開き、2021年度の制度改正に向けた議論を開始した。年内に大枠の方向性を固め、来年の通常国会に関連法の改正案を提出する。
最重要の争点は大きく2つだ。まずは利用者の自己負担。2割、3割の所得ラインを下げて対象を広げるか、居宅介護支援のケアプラン作りでも新たに徴収していくかが俎上に載る。もう1つは地域支援事業。介護予防をいかに推進していくかも大事だが、より多くのサービスを総合事業へ移すか否かがやはり核心だ。これらが利用者・事業者に与える影響はかなり大きい。どれも財務省が繰り返し注文してきた経緯があり、政府も審議会で議題とすることを既に決めている。
社保審・介護保険部会 25日
「現役世代の負担は既に限界に達している」「今回こそ踏み込んだ施策を講じて欲しい」。
この日の会合では、日本経団連や日本商工会議所など経済団体を代表して参加している委員から、膨らみ続ける給付費を抑制する手を打つよう迫る意見が続出した。経済界はこの分野で基本的に財務省の考えを支持している。40歳から64歳の保険料を多く負担している立場で発言力は強い。
もっとも、一部の現場の関係者や利用者の団体などは過度な抑制策に強く反対する見通しだ。年の瀬が近づくにつれて対立は激化していき、最終的な判断は政治サイドに委ねられることになる。意思決定のプロセスが動き出すのは夏の参院選の後。国政選挙はしばらくない、という環境下で政府・与党が思い切った結論を出す可能性も否定できない。
介護保険の改革は3年に1度。前回は2018年度で次は2021年度だ。具体策は2つの審議会で論じていくのが慣例となっている。介護給付費分科会と介護保険部会。前者は各サービスの単価や運営基準など、主として報酬改定をテーマとする。一方、後者が主に扱うのは法改正・制度改正だ。ここで形成されたコンセンサスが法案となり、翌年の通常国会で審議される。
社保審・介護保険部会 25日
厚労省はこの日の介護保険部会で、これから議論を進めていくうえで重視していく視点を提示。地域包括ケアシステムの推進、制度の持続可能性の確保といったお馴染みの価値観に加えて、新たに「2025年以降の現役世代急減への対応」も打ち出した。労働力の制約が強まる中でサービスをどう確保するか、社会の活力をどう維持するかを重大な課題と位置付けている。
これから取り上げられていく論点は非常に多い。部会のスコープは報酬を除いた介護保険の全域に及ぶ。厚労省は共通点の多い横断的なテーマとして、
○ 介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)
○ 保険者機能の強化(地域保険としての地域のつながり機能・マネジメント機能の強化)
○ 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)
○ 認知症「共生」「予防」の推進
○ 持続可能な制度の再構築・介護現場の革新
の5つをあげた。
今後、夏までは概ね月1回のペースでこの横断的なテーマを中心に意見交換を行っていく。各論に入るのは秋以降の予定。この日の会合では、深刻な人手不足の解消につなげる新たな対策の検討を求める意見が多くあがった。
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