高齢者になっても人を好きになること、つまり恋愛感情を抱くことはあります。
相手はテレビに出ているようなアイドルや歌手、俳優だったり、はたまた老人ホームで一緒に生活する利用者だったりといろいろです。
そこで今回は、元特養スタッフが特別養護老人ホームを舞台にした恋愛事情を届け。それと共に、高齢者が恋愛をするメリットや注意点について紹介します。
特別養護老人ホームで暮らす80歳男性と74歳の女性の切ない恋愛ドラマだっポ。
介護施設での恋愛事情ってどんな感じなのかしら!
軽度の認知症によって特養に入居するSさんは80歳の男性。ロマンスグレーの髪にスラッとした体型のステキなお爺さんです。
軽度の認知症を患ってはいるものの紳士的な振る舞いで、「きっと若い頃は女の人にモテただろうな」と思わせる雰囲気でした。数年前に奥様を亡くされ、二人の娘がいます。
お相手のTさんは、歩行に不安があり杖を使用している74歳の女性です。10年前に旦那様を亡くされた後、息子夫婦との折り合いが悪く施設に入居しました。
きれいな白髪を短くカットされ、見た目は小柄でかわいらしいお婆さんといった感じですが、頑固で気が強く介護職員に辛く当たる一面もありました。
二人は一年以上、施設の同じフロアで暮らしていましたが、言葉を交わすことはほとんどありませんでした。物語が動き出したのは、その特養で行われた夏祭りです。偶然隣の席になった二人は意気投合します。
その日から、二人並んで食堂のソファに座って会話する姿を多く見かけるようになりました。若い頃に就いていた仕事の話や学生の頃の話など、昔話に花を咲かせていたようです。
いつも退屈そうに過ごしていた男性入居者のSさんは明るくなり、Tさんは優しく穏やかになりました。ニコニコしながら、「この人は私の大事な人よ」と周囲に紹介するTさん。そんな二人の様子を職員はほのぼのとした思いで見ていたのですが、残念ながら家族は納得しませんでした。
初めに「お父さんが色ボケしてしまった」と、職員のところへ相談に来たのはSさんの家族です。娘や孫が面会に来ても、Tさんとの時間を優先するお父さんに驚いたのでしょう。
そのうちに、Tさんの息子も「年を考えろ」とTさんを説教するようになりました。
家族の反対を押し切って恋を成就させるのかと思われましたが、二人の恋は悲しい結末を迎えます。職員立ち合いのもと家族同士が話し合いを行い、Sさんがフロアを移動することになったのです。
両家族が出したのは、SさんとTさんが特養の別のフロアで生活することで顔を合わせないようにするという結論でした。「老いては子に従えって言うでしょ」と言ったTさんの切ない表情が忘れられません。
次は結婚歴のない75歳男性の不器用な恋だっポ。お相手は22歳の介護スタッフだよ。
ええ!? 恋の行方はどうなったのかしら……。
足が不自由で車椅子を使用する75歳のMさんは、結婚歴がないため天涯孤独の男性です。
強面で寡黙なMさんは、他の利用者や職員と会話をすることがほとんどありません。自室でテレビを見たり読書をしたりして1日を過ごしていました。
ある日、他の利用者が寝静まった時間にMさんのナースコールが鳴りました。夜勤の女性介護職員が「トイレかな?」と居室を訪れると、暗闇のなかMさんがベッドに座っています。
すると、低い声でMさんが「結婚しよう」と一言。
普段の様子から、Mさんが冗談を言う人ではないことがわかっているだけに、職員は一瞬状況が読み込めなかったといいます。Mさんからは「自分のことが嫌いなのか?」と思うほど冷たい態度をとられていたそうなので、本当に驚いたようです。
きっとMさんは、好きな相手には素直になれないタイプなのでしょう。
その介護職員は22歳、Mさんは75歳。実に53歳差の恋でした。
もちろんプロポーズはMさんを傷つけないよう丁重にお断りしたそうですが、無事に気持ちを伝えることができたMさんは吹っ切れた様子で、以前より明るくなったように感じました。
Mさんの恋が実ることはありませんでしたが、何歳になっても人を本気で好きになることがあるのだと実感した出来事です。
モテる人の共通点は、若者でも高齢者でも大きく変わらないみたいだっポ。
わたしは優しくて笑顔がステキな男性がいいわ!
モテる人とモテない人の違いは、一体どこにあるのでしょうか。その答えは老若男女関係なく、共通しているかもしれません。
たとえば、どんなに見た目が良くても笑顔を見せずブスッとしている人はモテません。デートをしていても明らかにつまらなそうな態度を取られたら、早く帰りたくなってしまいます。
高齢者の場合も同じで、笑顔が素敵な人や一緒にいて楽しいと感じられる人はモテるはずです。
それから、清潔感があって身だしなみを気にする人は、男性であっても女性であっても人気があります。
オシャレをしていても肩にフケがたくさん落ちていたり髪の毛がベトベトしていたりしたら、せっかくのオシャレが台無しです。
また、高齢男性は自分の話を聞いてくれる女性に弱いです。「若い頃の武勇伝を語りたい」と思っている高齢男性は意外と多いので、ニコニコしながら話を聞いてくれる聞き上手の女性はやはり人気があります。
施設の高齢カップルを見ると、男性の話を「うんうん」と女性が聞いているケースが多く、寡黙な男性よりはお話上手な男性の方がモテるようです。
若者には草食系男子が多いそうですが、モテる高齢男性は肉食系ということでしょうか。
さらにモテる人に共通しているのは、適度なスキンシップや声掛け、変化に気づく着眼力です。今も昔も「あれ?髪型変えた?」と、さらっと言える人はモテるということでしょう。
さて、「女性は恋愛をするとキレイになる」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょうが、これは若い女性に限った話ではありません。高齢女性も恋をするとキレイになります。
まず、人の目を気にするようになるため、服装がオシャレになったり化粧をしたりする人も多いです。中には、白髪染めをする人やネイルをする人もいます。
結果、自分に自信が持てるようになり、優しく穏やかな性格になる人も。相手を思いやったり、心に余裕が生まれたりするのも恋愛におけるメリットのひとつです。
男性の場合も同様で、着替えや入浴を面倒臭がっていた人が自ら身だしなみを気遣うようになったり、恋人と一緒に食事をすることで摂取量がアップしたり、一緒に散歩に行くためにリハビリを頑張るようになったりするなど、恋は意欲の向上にもつながります。
男性も女性も、恋をすることで人生が楽しくなったという人が大半です。
高齢者の恋愛にはさまざまなメリットがあるけど、注意すべき点もあるっポ。
そうね。特養での事例を見ると、若い頃のように突っ走ればいいってワケにもいかなそうよね。
まず、自分や相手の家族に対する配慮です。親の恋愛に対する子どもの感情は人によってそれぞれ異なります。
「いい人ができて良かったね」という子どもがいる一方で、「亡くなったお父さん(お母さん)が可哀想」や「いい年して恥ずかしい」と感じる子どももいます。
自分の子どもが認めていても、相手の子どもが同じ気持ちとは限らないため、誰かを傷つけてしまう可能性も否定できません。
同時に、相手の気持ちを考えて行動することも大事です。久しぶりの恋愛に舞い上がってしまい、相手が迷惑していることに気づかずトラブルになるケースもあります。
「ストーカー」なんて汚名をつけられないような注意も必要です。
「恋は盲目」という言葉があるように、人は恋に落ちると理性や常識を見失いやすくなります。そのため、人目をはばからず恋人とスキンシップを図る人も。
しかし、老人ホームやデイサービスなど多くの人が過ごす場所で過度のスキンシップをとること、つまりイチャイチャすることはおすすめできません。
なぜなら、中には高齢者の恋愛をよく思わない人もいるからです。不快感を与えてしまう恐れもあるので、TPOに合わせた行動が必要になります。
自分の親に好きな人ができたら、複雑な感情を抱く人は多いでしょう。しかし、高齢者の恋愛は決して珍しいことではありません。人を好きになることで毎日が楽しくなり、生活の質(QOL)が向上することもあります。
今回紹介したSさんとTさん、Mさんは悲しい結末になってしまいましたが、それでも人生を彩る思い出の1ページになったのではないでしょうか。
そんなふうに思える相手に巡り合えたことを羨ましく感じる、高齢者の恋愛事情でした。
著者:柴田 まみ
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