ヤングケアラーとはどんな人を指すのかな?
本人たちの悩みや問題点もまとめて紹介するっポ。
家庭内で家族の介護やサポートをするヤングケアラーが、近年社会的な問題になっています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングがまとめた「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」によると、ヤングケアラーの割合は中学2年生で5.7%、高校2年生で4.1%を占めるそうです。
ヤングケアラーとは、家族・親族などの世話や介護をする18歳未満の”子どもたち”。
厚生労働省によれば、法令上の定義はないものの、以下のような行為がヤングケアラーに当てはまるといいます。
*ヤングケアラーについて(厚生労働省)より
本来なら両親や祖父母から世話を受ける立場の子どもたちが、遊びや勉強をしたいであろう時間を割いて身体的・精神的な負担を負っています。
著者はこれまで何人かのヤングケアラーに出会ってきましたが、その中でも印象に残った2つの事例を紹介しましょう。
初めてヤングケアラーといえる子どもたちに出会ったのは、介護保険ができる以前のことです。
その家族は親子で母親のきょうだいの家に居候し、母親は重い病気を抱えていました。病気で寝ている母親のために、小学校中学年の女の子と高学生の男の子がケアをしている状態です。
子どもたちは学校から帰ると、まず何をしたらいいのかを母親に相談します。
それから母親が頼んだ通り、買い物に行ったり、訪問ヘルパーが作り置きしておいた食事を温めたり、洗濯を取り込んで畳んだりしていました。
その合間をぬってランドセルから取り出した宿題をしていたので、友達と一緒に出かける時間もなかったかもしれません。
小さな胸も不安でいっぱいだったのか、2人とも笑顔がなかったような気がします。
次にヤングケアラーといえる子どもと出会ったのは、介護保険が施行されたあとのことです。
その男の子は、認知症で知的障がいの母親と、知的障がいのきょうだいと3人で暮らしていました。
認知症の母親は家の中をゴミ屋敷にし、知的障がいのきょうだいは栄養失調と脱水を繰り返す状態です。
ある日、地域の関係機関が解決に向けて集まることになり、そのヤングケアラーの男の子は家族の代表として意見を聞かれることに。
制度の利用などを説明されても年齢的に理解が難しいようでしたが、その男の子にはどうしても家族にしかできないことを主にしてもらい、できるだけ関係者で支援することにしました。
しかしその家庭は、親が無年金で収入はきょうだいの障害年金のみです。そのヤングケアラーの男の子は中学を卒業すると、家計を助けるためにそのまま就職していました。
ヤングケアラーが生まれる大きな原因として、どうしても子どもが親の代わりに家族の介護を担わなければならないという状況があります。
親自身が身体的または精神的な病気を抱えているケースもありますし、親が収入を途絶えさせないよう働きに出ているために、子どもが介護を担うこともあります。
子どもが家族の介護をするとなると、当然問題も生まれます。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」によれば、中学生・高校生のヤングケアラーには以下のような悩みがあるようです。
また、中学校・高校側から見ると、以下のような問題を把握していることが多いようです。
ヤングケアラーが実際にしているケアの内容としては、食事の準備や掃除、洗濯などの家事、買い物や散歩など外出時の付き添い、見守り、話し相手になるなどが多い傾向です。
その他に、入浴や排せつ介助などの身体介護、金銭管理や薬の管理などもあります。
ヤングケアラーがこれらのケアに費やす時間は以下の通りです。
世話に費やす時間(平日1日あたり)
平日に3時間以上の介護をする子どもも少なくありません。
平均時間では、中学2年生で4時間、全日制高校2年生で3.8時間とのことでした。
介護にこれだけの時間がとられてしまうと、部活動や宿題ができず、学校を休みがちになってしまうのも理解できます。
それに家庭の状況によっては、家計を支えるために子どもが仕事をすることもあるのです。
ヤングケアラーが抱える問題はたくさんありますが、子どもとして受けるべき教育や成長過程に必要な環境と、その権利が侵害されていることを忘れてはいけません。
その影響は、将来の子どもの人格形成や進学、さらには就職や結婚にまで及ぶ可能性もあるのです。
介護のために勉強がおろそかになるなどの困りごとがある一方で、「世話をすることに感じているきつさ」についての回答では「特にきつさは感じていない」が多い傾向でした。
世話をすることに感じているきつさ
きつさをあまり感じていないからか、他人に相談したことがないヤングケアラーも多いようです。
しかもなぜ相談したことがないのかの理由を問うと、「誰かに相談するほどの悩みではない」との回答が半数以上でした。
ヤングケアラーである本人たちは、その状況をあたりまえに感じているのかもしれません。
それでも、学校に行けない、友人と遊べない、睡眠が足りないなど、多くの問題を抱えているのが現実です。
わたしたちがヤングケアラーの支援でできることはないのでしょうか。これをすすめるには、家族や周囲の大人、子どもたち自身が、「家族ケアがお手伝いの域を超えていること」を認識し、共有することが重要になります。
児童虐待の例からもわかるように、家庭の中のことは外からだとなかなか分からないものです。
学校などの教育機関や児童館、地域の子ども会などが見守りや情報共有をするとともに定期的な調査も行い、子どもたち自身からの要望にもしっかり答えて欲しいものです。
例えば中高へのアンケートでは、以下のような意見が出ています。
以下、「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)」より一部抜粋
ヤングケアラーの相談窓口を作るとよい。また、ヤングケアラーに無償で教材提供ないしオンライン授業などを展開させる…といったことができるとヤングケアラーは減ると思う。
外部の人など学校とは関係ない第三者を学校に呼び、先生などに知られず、相談できる場所が学校に必要だと思う。
もっと難病に対する理解をするために、学校教育で、授業中に家族が障害者、難病になった場合どうしたら良いか、相談する場所を教えて欲しい。また障害者手帳に付随して家族手帳も欲しい。難病や障害者を介護している際に、いろいろサービスを受けたいときに、家族手帳があれば説明しなくても介護者だと認識されて手続きしやすいと思う。
障害者の収入をあげて欲しい、障害者が生活できる施設が少ないので増やしてほしい。入所待ちの人数が多く施設に入れない。
半日など時間を決めて、ヤングケアラーが世話をしている人を施設で預かれるようにし、学校に行けるようにする。
中学生や高校生が将来のために自分の好きなこと、したいことをさせてもらえるように介護が必要な人を無償で支援してくれるような制度が必要だと思う。
ヤングケアラーという存在を知らない人が多いと思うので、もっと多くの人にヤングケアラーとは何かを知ってもらうべきだと思う。
ほかにもたくさんの意見がありますが、経済的な支援、相談窓口、施設の増設、ヤングケアラーの周知などが支援策として考えられるでしょう。
しかし、ヤングケアラーに関する取組みを行っている市町村は17.7%に留まります。
ヤングケアラーに対する支援の難しさは、子どもがヤングケアラーだと家族や周囲の大人が認識していない、または本人が認識しておらず、自身の状況を問題と思っていない、などにあるようです。
ヤングケアラーの問題は、その上の若者ケアラーという18歳から30歳代のケアラーにも関係が深い問題です。ヤングケアラーがこのまま家族ケアを続けていくと、いずれ若者ケアラーになっていきます。
家族ケアのために進学や就職が難しくなったり、結婚の機会を逃してしまったりと、将来の生活に夢が持てなくなることも考えられます。
ヤングケアラーの問題は家庭の問題であると同時に、見逃してはいけない社会全体の重要な問題なのです。
著者:葦江(よしえ)
新着記事