相談者あさこさんは、認知症のお母さんが同じものばかり買い物してしまうことに悩んでいるそうなの。
認知症が原因なのかしら?
そうだね。認知症の人が同じものばかりを買ってしまう行為はよくあるんだっポ。
お金も無駄になるし部屋もちらっかっちゃうし、困るわよね。
解決策はあるのかしら?
*この記事の著者は介護認定調査員・介護福祉士・認知症介護実践者研修修了者です。
<あさこさん(仮名)58歳>
近くに住む82歳の母は認知症を患っているものの、身の回りのことはできるため一人暮らしをしています。
私は週1回実家に顔を出しているのですが、最近異変に気付きました。冷蔵庫や部屋のなかに同じものばかりがたくさんたまっているのです。
冷蔵庫には同じ商品が食べきれないくらい入っていますし、なかには賞味期限の切れた食品もあります。ですが冷蔵庫を整理しようとしたら、母に「それはまだ使えるから捨てたらもったいない」と言われて片づけることもできません。
最近では通販でもいろいろなものを購入しているようで、同じものがリビングのあちこちに置かれている状態です。このままでは悪徳業者に付け入られるのではないかと、とても心配しています。
買い物依存のように同じものをたくさん購入してしまう認知症の母には、どのような対処法があるのでしょうか。
お悩みを解決する方法を紹介するから参考にしてみてほしいっポ。
認知症の人が同じものを買ってしまう問題には、記憶力と判断力の低下が大きく影響しています。
実際にどのように影響しているか、詳しく見ていきましょう。
認知症の人は記憶障害を引き起こすため、買い物に行っても何を買うつもりだったか忘れてしまいます。
忘れないようにメモをしていても、メモそのものを家に忘れたり、しまった場所を忘れたりすることも多く、そうなると自分の勘を頼りに買い物をするしかありません。
そのため、日ごろよく使うもの、つまり同じものばかりを購入してしまう傾向があるのです。
また、自宅に必要なものがどれくらいあるのかを忘れてしまうことも原因のひとつです。
例えば、どの家庭でも必要となるトイレットペーパーやティッシュ箱などの日用品。これらはなくなってしまうと困るため、買い物の途中で不安になってつい買ってしまうのです。
これらの結果、自宅にいくつも同じ日用品たまってしまうという例は、認知症の人によくみられています。
認知症の人は判断力が低下してしまうため、必要がないのに反射的にものを買ってしまうこともあります。
例えば、割引されている商品を見たときや訪問販売で勧められたときなどは、ついつい購入してしまいがちです。
特に多いのが通信販売による購入で、広告やテレビショッピングなどを見ているとほしい気持ちになって衝動的に買ってしまいます。
しかし、実際には必要のないもの、すでに購入しているものであることも多く、同じ商品がどんどん家の中に増えてしまうのです。
同じものをたびたび購入すると、お金や保管場所だけでなく、食品であれば傷んだものを食べてしまわないいかなどの健康面も心配です。
だからといって、認知症の人が買い物をやめることは現実的に難しいでしょう。
特に身体的に元気な人や一人暮らしの人の場合には、その人の生活能力を奪うことにもなり、認知症を進行させる可能性もあります。
では、どうすれば同じものを購入させずにすむのでしょうか。
同じ品物の購入を防ぐには、買い物の手段別に対策をする必要があります。それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
スーパーなどの実店舗で同じものを買ってしまうケースでは、まずメモを書くようにしましょう。買うものと数をメモに書き、本人に手渡すようにします。メモを入れる場所は統一しておくと、探さずにすみます。
メモそのものを忘れてしまうなら、周りの人の協力を仰ぐとよいでしょう。よく行く店舗が決まっているのであれば、お店の人に事情を話しておけば気を付けて見てくれる場合もあります。
家族が一緒に買い物に行くのも大変効果的です。必要のないものを購入しそうになったときは、本人に話して売り場に戻してもらいます。そうすることで、意識づけができる場合もあります。
本人に話しても「必要だから」と突っぱねてしまうなら、こっそり売り場に戻すという方法も有効です。
また、どのような方法も難しければ、地域包括支援センターに相談すれば一緒に対策方法を考えてもらうこともできるでしょう。
通信販売などでつい購入してしまう人の場合は、購入のきっかけとなるダイレクトメールなどの排除が有効です。ダイレクトメールがよく届いているなら、その会社に連絡して発送を止めてもらいましょう。
もしすでに何度か同じ商品が届いていれば、定期購入になっている可能性もあります。購入先の会社に確認して、定期購入であれば理由を説明して止めてもらえば、商品が必要以上にたまることもありません。
状況によっては、成年後見制度の利用も検討しましょう。
訪問販売で購入してしまうケースでは、本人が訪問販売員と接触しない工夫をしなければなりません。「セールスお断り」の札を貼ると同時に、本人にもすぐに玄関を開けないよう伝えておきましょう。
「セールスお断り」の札やシールは配布する自治体もありますし、百円ショップなどで安く購入することもできます。
電話での営業を防ぐには、決められた番号しかコールが鳴らない設定にするのも良い方法です。実際に、認知症の人だけでなく高齢者のみの世帯では、登録した番号しかつながらない設定の電話が増えています。
認知症の人が同じ食材を繰り返し購入して困るのは、食品の消費期限や賞味期限が切れてしまうことです。
認知症の人は判断力が低下するため、冷蔵庫の中の適切な管理が難しくなります。家族が本人と一緒に冷蔵庫の中を確認し、消費期限や賞味期限の切れた食品を整理するようにしましょう。
しかし、「もったいない」と整理させてくれないケースもあります。そのような場合には、本人の外出時や見ていない隙に食品を整理して、うっかり本人が食べてしまわないようにしましょう。
認知症の人が購入した商品の中で明らかに不必要なものがあったら、訪問販売での購入であればクーリングオフ制度を利用しましょう。
ただしく多くの場合、クーリングオフ制度は書面を交わして8日以内に申し出なければなりません。
普段から家族も家の中に何があるのかよく観察しておき、いざというときに迅速に対応できるようにしておきましょう。
通信販売などで購入した商品は原則クーリングオフ制度の対象外となるため、返品できるかを確認してください。
多くの商品には返品特約が付いているため、希望する場合には商品を販売した会社に問い合わせてみましょう。返品可能期間であれば返品ができます。
ただし、返品可能期間を過ぎていたり、販売時に「返品不可」と説明されている場合には返品が困難です。
認知症の人が同じものを購入してしまうと、家の中がたくさんのものであふれたり、消費期限の切れた食品で冷蔵庫がいっぱいになったりと、生活に大きな影響を与えます。
しかし、買い物は生活の一部でもあるため、急にやめさせると認知症が進行するきっかけになりかねません。
家族だけでなく周りの人にも協力してもらいながら、認知症でも可能な限り買い物ができるよう支援していくことが大切です。
著者:中村 楓
こちらもおすすめ
新着記事