いまでは介護される身となった、ある訪問介護の利用者さん。かつては自分の母親を介護していたそうです。
認知症を患うお母さんの介護は大変なこともあったようですが、よい思い出もたくさんあったそう。特に孫の結婚式での出来事が思い出深いようで……。
訪問介護の利用者さんは、“自分が一番大変だった頃”のお話をよくされます。これは、認知症を患われている方も記憶力がしっかりしている方も共通です。
畑仕事に精を出していた頃、会社で働き盛りだった頃、子育てに忙しかった頃……などなど、身体的に辛かったであろう頃が一番印象に残っているようですね。
ですが、ある利用者さんは苦労話ではなく「あの頃はよかった」「私の母は凄かった」と、お孫さんの結婚式での出来事を話してくださいました。
利用者さんは、お母さんが99歳で亡くなられるまで一人でお世話をしていたそうです。
「認知症もあったから、ちょっと辛いときもあった」「外を車椅子で行き来するようになってからは周りの目が気になった」などと辛い思い出を話しながらも、「私は母が大好きだったから、二人きりのあの頃が一番よかった」と笑顔を見せていらっしゃいました。
そして「凄かった」というお孫さんの結婚式のお話。お孫さんに、「披露宴でひいおばあちゃん(利用者さんのお母さん)から一言欲しい」と依頼されたんだそうです。
その頃にはもう着替えの手順や金銭の管理もままならなかったお母さんでしたが、利用者さんは「きっとお母さんは、結婚式ならいいことを言ってくれる」と信じてそれを承諾しました。
そしていよいよ結婚式当日。お母さんはその場所が結婚式の会場かどうかもわかっていない様子でしたが、着物に羽織を着せるとちょっと背筋が伸びたそう。
「心配だったけど、母を閉じ込めてはもったいないと思った。昔から肝が据わっているし」。そう話す利用者さん。
マイクを向けられたお母さんは「結婚とは忍耐」「二人で仲良く共に耐え抜いてください!」と、ハッキリと助言したそうです。新郎新婦も親族もこれにはビックリ。
「これがわたしの一番幸せだった瞬間」「私の好きなお母さんはやっぱり尊敬できる立派な人だと実感した」。
自分とそっくりの顔をしたお母さんの遺影を眺めながら、満足そうに語られていました。
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