「自分で親の介護をしないなんて」と兄弟に責められた相談者。罪悪感を抱いてしまったようだけど…それって悪いことなのかな?
<いさむさん(仮名)53歳>
近くに住む84歳の母は、足腰が悪く歩行が少し不安定です。また、認知症の診断も受けています。
それでも元気に一人暮らしをしていましたが、体調を崩したことをきっかけに週3日のデイサービスと週2回の訪問介護を利用するようになりました。
以前は夕方や週末に様子を見に行っていたのですが、最近では仕事とのバランスがうまくとれずに訪問の回数がかなり減っていました。介護サービスの利用を始めたのには、そういった理由もあります。
母の体調は落ち着いてきましたが、介護サービスを利用した結果、母とはつかず離れずのいい関係になったため、そのままサービスの利用を継続しています。
ところが、遠方に住む弟から「近くに住んでいるのに他人(介護サービス)に任せっきりなんて」と言われてしまい……。自分でも介護サービスに頼っていることに罪悪感がないわけではありません。
やはり親の介護は自分でするべきなのでしょうか。
親の介護を放棄していると兄弟に責められてしまった相談者。
誰にも頼らず自分一人で介護すべきなのかな?
親や家族に介護が必要な状態になったとき、「身内のことは身内で担うものだ」と考える人はきっと少なくないでしょう。
しかしそんなことはありません。自分で介護をしないことに罪悪感を抱く必要はないのです。
その理由は主に3つです。
ひと昔前、何世代もがひとつ屋根の下で一緒に生活していた頃であれば、高齢者の介護を家族で担うのは当たり前だったかもしれません。
しかし核家族化が進んだ現在では、介護を巡る状況も変わってきました。
祖父母とは離れて暮らし、両親は共働き、きょうだいはおらず一人っ子といった家庭も増え、以前よりも家族による介護が難しくなっています。
家族や誰か一人だけの力で介護をしようとすると、いずれ限界がきてしまいます。
「家族だけの介護を続ければいずれ限界がきてしまう」と言われても、責任感の強い人であれば「親の介護はやっぱり家族がするべき」と考えてしまうかもしれません。
しかし無理をして家族が介護を続けることには、やはりデメリットがあります。
その理由は主に3つです。
まず一番に考えられるのが、自分の時間を持てなくなることです。
同居する家族の介護にかける時間について、厚生労働省によるレポートがあります。
それによると、要支援1~要介護2では「必要なときに手をかす程度」がもっとも多い結果です。
しかし要介護3以上になると、「ほとんど終日」がもっとも多く(要介護3で32.5%、要介護4で45.8%、要介護5で56.7%)、「半日程度」を含めると50%を超えてしまいます。
これは同居で介護する人の結果ですが、別居であっても親の家との行き来を考えればかなりの時間がかかっているはずです。
家族だけによる介護は、これまでできていた趣味や習い事、友人との時間だけでなく、睡眠時間も大幅に削られてしまう可能性があります。
介護にかける1日の時間が長くなるほど、仕事との両立が難しくなります。
仕事と介護をうまく両立できずに、正社員からパートになる人や介護離職をする人も少なくありません。
介護の時間は確保できるかもしれませんが、収入の減少や無収入になるといった問題があります。また、その後の再就職に影響が出ることも考えられます。
仕事と介護を両立するためには介護休暇や介護休業の制度がありますが、取得しにくい職場があるなど利用が困難なケースも珍しくないのが現状です。
介護で心身ともに疲れてしまい、体調を崩してしまう介護者も少なくありません。
家族介護が続くほどその可能性は高くなり、最悪のケースでは無理がたたって共倒れになってしまう危険もあります。
身体介護は腰を痛めがちですし、夜間のケアで寝不足になることも考えられます。
場合によっては、精神的負担が大きくなって介護うつになる人や、虐待を起こしてしまう人もいるほど、介護疲れは深刻な問題なのです。
家族だけで介護をする3つのデメリット「自分の時間が持てない」「仕事との両立ができない」「共倒れの危険」を回避するために積極的に利用したいのが、介護保険制度であり介護サービスです。
第三者に介護をお願いすることで、家族の負担は大きく減ります。
「自分が楽をするために他人に親の介護をお願いするなんて」と、介護サービスに抵抗を感じる人もいるかもしれません。
しかし、むしろ介護サービスを活用することこそが愛情とも考えられます。なぜなら、介護サービスで要介護者のケアをするのはその道のプロだからです。
介護が必要な本人を一番理解しているのは家族だと思います。ですが、介護についてはほとんどの人が素人でしょう。
知識や技術がなければ肉体的にも精神的にも疲労がたまってしまいます。余裕がなくなると、介護者自身が倒れたり事故や虐待を起こしたりする可能性もあり、そうなっては本末転倒です。
家族だけで手探りの介護をするよりは、知識も技術もある介護のプロに任せた方が結果的に本人のためともいえます。
介護サービスは家族が楽をするためだけに存在するのではありません。ですから、介護サービスの利用に罪悪感を抱く必要はないのです。
もうひとつ、親の介護で家族が罪悪感を抱きやすいケースがあります。それは、親が老人ホームなどに入居したとき。
親の要介護度が上がったり認知症が重くなったりすれば、施設入居も選択肢のひとつになります。
しかし、「もっと自宅で介護できたのではないか」「一人で寂しい思いをさせてしまうのではないか」「この選択は正しいのか」などといった後悔や葛藤から、親に対して申し訳ない気持ちになってしまう人も少なくないようです。
ですが施設入居は、本人にとってもちゃんとメリットがあります。
施設であれば常に見守りの目があり、掃除などの生活支援やバランスのとれた食事の提供もあります。
必要に応じて切れ目なくプロの介護を受けることもできるため、介護を必要としている人にとっては、むしろ生活環境がよくなるケースも多いでしょう。
特に認知症が進行している場合はメリットが大きいといえます。身の安全を確保できますし、認知症専門のケアも受けられるからです。
また、入居者の多くが同世代なので話が合いやすく、レクリエーションなどコミュニケーションの機会も多いため、友人ができやすいといったメリットもあるでしょう。
施設の種類はさまざまです。要介護度の重い人に対応する特別養護老人ホーム(特養)から、自宅のように自由に過ごせるサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、認知症の高齢者を対象としたグループホーム、自宅復帰を目指すことを目的とした介護老人保健施設(老健)などがあります。
終の棲家となる施設だけではないので、本人の状態に合わせて選ぶとよいでしょう。
もし、介護サービスの利用などに対してうしろめたさを感じてしまったら、いくつか試していただいたいことがあります。
まず大切なのは、罪悪感を一人で抱えないこと。具体的には、思いを理解してくれる家族に素直な気持ちを話してみるのもよいでしょう。
また、ケアマネジャーや主治医など、親の様子をよく知っている人に相談するのもよい方法です。
ケアマネジャーや主治医は、家族の思いやがんばりをよく知っています。具体的な悩みだけでなく、家族の不安な気持ちや心苦しい気持ちにも寄り添ってくれるでしょう。
また、介護家族の会などに参加するのもおすすめです。同じ立場にいる人ほど、自分の気持ちを分かってくれる人はいません。また、他の人はどのように親の介護に向き合っているのかを知れるよい機会です。
もし親が施設に入居しているなら、頻繁に面会に行くのもよいでしょう。顔を見ればお互いに安心できますし、親の状況も把握できます。
また、施設のケアマネジャーや相談員は、入居者や家族の思いをよく理解しています。家族が抱く罪悪感に寄り添い、一緒に向き合ってくれるでしょう。
親の介護を「放棄して放置する」と「介護サービスに任せる」は一緒のように考えられがちですが、実際はまったく違います。
「放棄して放置する」のは、本人の状態によっては命にも関わる危険なことです。
一方、介護サービスの利用は、親はプロのケアを受けることができ、家族は仕事との両立ができるなど、両方にとってたくさんのメリットがあります。
それでも介護サービスの利用に罪悪感を抱えてしまうようであれば、ケアマネジャーや家族会、気持ちを理解してくれる親族・友人などに相談すると、気持ちが楽になるかもしれません。
介護疲れによる悲しい事件や事故を起こさないためにも、介護は家族だけで抱えないことが大切といえるでしょう。
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