新型コロナウイルスによる影響は介護現場にも拡大しています。デイサービスなどの通所施設内でも感染が広がり、利用者が死亡するケースも確認されました。
筆者である私は、15年間ケアマネジャーとして在宅介護を必要とする高齢者のケアプランを作ってきました。また、現在では介護施設の研修講師をしていることから、保険者(自治体)や法人の対応を見聞きするばかりではなく、多くの介護現場の意見や大変さを生の声として聞く機会があります。
そのような経験から、今回はデイサービスを取り巻く新型コロナウイルスの現状と望まれる対応について、解説していきます。
多くの高齢者や職員が過ごす介護施設やデイサービスは、クラスターが発生しやすい場所といえます。また、高齢者は持病を持っていることが多く抵抗力も低いため、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいという特徴があります。デイサービスなどで感染を広げないことは最重要事項なのです。
実際に、愛知県名古屋市のデイサービスで起きた集団感染に続き、兵庫県伊丹市のデイケアでも複数の感染者が確認されました。
デイサービスやデイケアで集団感染が発生しやすい理由は、大きく2つ挙げられます。
まずひとつ目は、デイサービスやデイケアなどの通所施設を利用される高齢者の多くは、その他の介護サービスも同時に利用しています。つまり、利用者自身が感染源となって新型コロナウイルスを広げてしまうのです。
2つ目の理由は、高齢者が職員から介護を受けると、身体を密着させた濃厚接触となってしまうことです。そのため、介護士が感染して他の利用者に広げてしまうことが考えられます。
今回、名古屋市や伊丹市の通所施設で起きたクラスター事例でも、一人のご利用者や介護職員から複数の通所施設に感染が拡大してしまいました。しかし、その影響は介護の現場だけとは限りません。介護と密接な関係にある医療機関へも感染拡大のリスクがあると認識しておかなくてはならないでしょう。
名古屋市内のデイサービスにおける集団感染の判明を受けて、名古屋市は市内126の通所系施設に対して2週間の休業要請を行いました。この判断に対しては賛否両論ありますが、デイサービスが休業になれば少なからず利用者に影響があります。
デイサービスは、食事、入浴、機能訓練、他の利用者との交流などを行う場所です。これらのサービスは生命への影響は少ないと思われるかもしれませんが、高齢者の場合はそうではありません。なぜなら、環境の変化や他者との交流の遮断は抑うつ状態に陥るきっかけとなり、要介護状態の悪化につながりかねないからです。
多くの高齢者はデイサービスへの通所が日常生活に欠かせないため、適切な対応が必要になります。
デイサービスが休止になった場合は、ケアマネジャーが代替案を検討してサービスの調整をします。代替案としては以下が考えられるでしょう。
しかし「家族への協力要請」は、家族の負担を考慮しなくてはなりません。身体的、経済的な負担を考慮して、必要最小限の期間にとどめておくべきでしょう。
「訪問介護などの訪問型サービス導入」にも問題点があります。訪問介護の事業所は慢性的な人員不足であることがほとんどです。そのため、多くの新規利用者を受け入れることは困難だと予測されます。また、食事提供をメインとしたサービス利用は同じ時間帯に集中してしまうため、さらに受け入れが困難になると考えられます。
現在、新型コロナウイルスに感染した疑いのある利用者に対しては、諸条件を満たせば訪問介護や訪問看護のサービス提供時間が20分未満でも柔軟な対応が可能です。しかしこれは、新たな利用者を受け入れるという意味では十分でないと感じています。
新規利用者を受け入れるには、感染の疑いがある利用者だけではなく、この特例をすべての利用者に拡大して、事業所の受け入れキャパを確保するほうが効果的だと考えます。
一方、休業要請のあった名古屋市では、柔軟な対応をするデイサービスがあります。通所施設職員による訪問サービスが認められたことで、あるデイサービスでは通所型サービスから訪問型サービスに切り替えて、訪問での機能訓練を提供しています。
デイサービスへの通所ができない代わりに、職員が高齢者の自宅を訪問することには意味があります。検温や機能訓練、会話などを通した職員との交流は、利用者の孤立を防ぐだけでなく、ADLの低下や抑うつ状態の予防にも効果的といえるでしょう。
介護を提供する側が感染予防に留意した柔軟な対応をすれば、通所施設の休業による影響を最小限に抑えられるのではないでしょうか。
現在の厚生労働省の対応は事業所にその対応を丸投げしている感も否めませんが、これらに加えて早急に検討したいのが、行政を主体としたインフォーマルサービスの拡充です。
インフォーマルサービスとは、公的機関だけでなく、地域や家族、ボランティアなどによる支援です。
特に高齢者の食事に関しては、現在の配食サービスのシステムだけでは対応しきれません。保健所などの機関とも連携しながら、高齢者が食事に困らないような対策の必要があると思われます。この対策には、休業を余儀なくされている通所施設の設備や人員を活用することも可能でしょう。
また、それまでの介護サービス利用に比べて、利用者の自己負担額が増加することも考えられます。増加分に対する助成、または訪問入浴、訪問看護などの単位数の大きいサービス利用は一定期間の区分支給限度基準額から除外するなど、利用者が必要な介護を受けられるような行政の対応が期待されます。
デイサービスの一斉休業による弊害が懸念されるなか、福井県の長寿福祉課は名古屋市などとは異なる方針を打ち出しました。デイサービスをはじめとした介護事業所に新型コロナウイルスの感染者が出たとしても、原則として一斉休業は要請しないとの方針です。
感染者が出た場合には、保健所と連携して介護事業所ごとに対応を決めた上で、利用者・家族の生活にできるだけ影響が出ないように対応を検討するとのことです。
いずれにしても、介護に携わる職員は自分の行動範囲にある感染リスクを十分に把握し、感染が疑われる場合には利用者と接触しないよう心掛けなければなりません。また、職員がそのような状況に陥ったとしても、負い目を感じることなく申し出ができるような事業所の体制を築く必要もあるでしょう。
感染者やそのご家族の行動範囲はそれぞれ異なりますし、新型コロナウイルスの特性に関する情報は日々更新されます。そのときどきのケースに臨機応変に対応できるように、専門家の意見を尊重した都度の対応が望まれます。
現在感染が起こっていない地域であっても決して対岸の火事と考えず、集団感染の防止対策やデイサービス休業となった際の対策を早期に検討しておくことが重要です。
著者:寺岡 純子
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