暑い時期になると、介護施設ではある光景がよく見られます。それは、ことあるごとに介護職員が高齢者に声をかけ、普段よりも多く水分を取っていただくように促している姿です。
実は高齢者は脱水に陥りやすいのですが、本人任せにしていると脱水症を起こすリスクが少なくありません。
その理由としては、自分では脱水の傾向に気がつきにくい、トイレの回数を増やしたくない、水分の摂取を嫌がるなどが挙げられます。
高齢者が脱水にならないよう、介護現場の職員は常に気を配っているのです。
私たちの体の半分以上は血液や体液、リンパ液などの水分でできています。
それらは通常、余分な塩分を汗や尿などとして体外に出したり、過剰に摂取した水分や電解質を体外に排出したりして、うまくバランスを保っています。
しかし、大量に汗をかいたり発熱や下痢をすると、体内の水分や塩分の量が足りなくなり体の機能の維持が難しくなるのです。
このような状態が脱水症と呼ばれます。そのまま放置していると重篤な状況を引き起こしてしまう恐れがあり、最悪の場合には命を落とすこともあるので注意が必要です。
脱水は若い世代でも起きますが、脱水状態になりやすい原因が高齢者には多くあります。
その原因とは以下の5つです。
加齢により腎臓の機能が低下すると、老廃物を排泄するために必要な水分量が増えて尿量も増えます。
そのため、体内の水分が減少して脱水を起こしやすくなります。
口から摂取した栄養が消化管で分解されると同時に、代謝水と呼ばれる水が作られます。
しかし高齢になり基礎代謝量が減ると、栄養の消化吸収が少なくなり作られる代謝水の量も減ります。
高齢になると認知症の有無にかかわらず、のどの渇きを感じにくくなります。
体内の水分量が少ないことに気づかない、食事量の減少により摂取する水分量も減ってしまう、トイレの回数が増えることを嫌がり水分摂取を減らす、といった高齢者も少なくありません。
体内の水分の約7割は筋肉や臓器、皮膚の組織などに含まれています。中でも筋肉には特に多くの水分を含んでいます。しかし、高齢になると筋肉量が少なくなるため、体内に水分を溜めにくくなります。
高齢者の中には血圧を下げる薬を服用する人も多くいます。血圧を下げる薬の中には、利尿剤と同様に体内の水分を尿として出して血圧を低下させるものがあります。
そのような薬を日常的に服用すると、体内の水分が少なくなり脱水を引き起こします。
高齢者は脱水の症状が出ていても自分では気がつきにくいため、周囲にいる家族や介護者が常に気にしておくことが大切です。
脱水症にはどのような症状があるのか、軽度から中度、重度の症状まで知っておくようにしましょう。
軽度の脱水症の場合には、皮膚や唇、口の中の乾燥が見られます。
脱水しているかどうかは以下のような方法で確認が可能です。
このような場合は脱水を疑うようにしましょう。
また、高齢者が脱水になると意識が鮮明でなくボーっとしたり、突然訳の分からないことを叫んだり、理解できない行動をしたりするせん妄状態になることがあります。
うとうとと傾眠気味となる、めまいやふらつきが見られるなどの症状が現れることもあり、高齢者の意識状態や変化には十分な注意が必要です。
脱水の程度がさらに進むと、頭痛や吐き気、全身の倦怠感など、さらに危険な状態に移行する可能性があります。
気温が高いのに汗をかいていない場合は、体内の水分量がかなり減少しているサインです。排尿の回数や量、色などをチェックし、水分と電解質を補給しましょう。
脱水の症状が重度になると、意識がもうろうとする、話しかけても返事がないなどの意識障害が起こります。
また、けいれんや意識がなくなるなどの症状は命に危険をきたす恐れもあるため、救急車を呼ぶなどして速やかに医師の処置を受けるようにしましょう。
脱水が起きたときに、水やスポーツドリンクではむしろ悪化することがあります。
電解質の少ない水分では血液が薄まってしまい、尿として水分を出すことで血液の濃度を保とうとして、さらに脱水が進んでしまうからです。
脱水症状を悪化させないためには、経口補水液が有効とされています。
経口補水液は塩分や糖分が配合された飲み物です。気軽に購入できるので、いざというときのために自宅に準備をしておくとよいでしょう。
また、自宅にある調味料で簡単に作ることもできます。
経口補水液の作り方
水 1リットル
塩 3グラム(小さじ1/2)
砂糖 40グラム(大さじ4と1/2)
上記の材料を混ぜるだけで完成です。レモンの果汁(大さじ2)を入れるとさらに飲みやすくなります。
脱水が起きたら、水やお茶、スポーツドリンクではなく、経口補水液で水分補給をするようにしましょう。
高齢者が脱水すると命を落とす危険があります。なぜ危険なのかというと、脳梗塞や心筋梗塞を発症する恐れがあるからです
脱水すると、血液の濃度が濃くなって固まりやすくなります。
血液の塊となった血栓は細い血管の部分で詰まってしまう恐れがあり、脳の血管が詰まれば脳梗塞になり、心臓の血管が詰まれば心筋梗塞を発症してしまうのです。
高齢者は脱水がきっかけで容易に生命を脅かす状態になってしまいます。十分に気をつけて脱水を予防しなければなりません。
軽度の脱水症であれば、水分と電解質の補給で改善することがあります。
しかし大切なのは、症状が出てから対応するのではなく、脱水にならないための予防です。
脱水予防には、きちんと1日3食の食事をとり、のどが渇いていなくてもこまめな水分摂取を心掛けましょう。
また、人は寝ている間にもたくさんの汗をかいて水分を失うので、寝る前や起床時の水分摂取も必要です。
高齢者は、夜中にお手洗いに行かないよう夜間の水分を控える傾向にあります。しかし、朝方に脳梗塞や心筋梗塞を起こすケースが多いため、夜中の脱水にはリスクがあることを忘れてはいません。
そのほか、入浴や運動前後の水分補給も忘れないようにしましょう。
高齢者は加齢などにより脱水を起こしやすく、症状が出現すると一気に悪化して危険な状態に陥りやすくなります。そのため、脱水症状が出てから対応をするのではなく、脱水予防を心掛けた生活習慣が必要になるのです。
食事や水分量を意識して、脱水予防に努めていきたいものです。
著者:寺岡 純子
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