「認知症の母親への接し方がわからない」っていう悩みを抱えたあやこさんからの相談だっポ。
あやこさんのお母さまは、アルツハイマー型認知症で物忘れなんかの症状があるようね。
*この記事の著者は介護福祉士・認知症介護実践者研修修了者です。
<あやこさん(仮名)61歳>
85歳になる母は、5年前に父を亡くして以来一人で暮らしています。3年前から物忘れが見られるようになり、受診したところアルツハイマー型認知症と診断されました。
母は糖尿病の持病があり薬を飲んでいるのですが、飲み忘れることもしばしばです。それに、甘い物は控えるように言っているにも関わらず、大好きなチョコレートを買い込んでおり、注意すると子供のように泣きじゃくってしまいます。
また、毎日のように「カバンがない、泥棒が入ったから急いで来てちょうだい」と昼夜問わず電話で文句ばかり言うので、私も参っています。
身体面ではとても元気なので、できるだけ自宅で過ごさせてあげたいのですが、会うたびにケンカになってしまい家に行くのも辛くなってきました。
認知症の親ヘはどう接すればよいのでしょうか。
認知症が原因とわかっていても、お母さまとケンカになってしまうのは辛いわね。
お母さんの元気な頃を知っているからこそ、これまでと違った様子に戸惑うことも多いと思うんだっポ。「私の知ってるお母さんじゃない」って悩んでるんじゃないかな。
そうね。わたしも両親が認知症になったときの接し方を知っておきたいわ。教えてくれる?
もちろんだっポ!
両親とか身近な人が認知症になったときの接し方を知るには、まず認知症について知識をつけることが大切だっポ。
認知症になると、必ず起こる「中核症状」と、本人の性格や周りの環境によって引き起こされる「周辺症状」、この2種類の症状が現れるんだ。
「中核症状」と「周辺症状」なんて初めて聞いた言葉だわ。
わかりやすく教えてもらえるかしら。
まず「中核症状」とは、認知症の人に必ず起こる症状なんだ。
中核症状には「記憶障害」「見当識障害」「理解力・判断力の低下」「実行機能障害」「感情表現の変化」があるんだよ。
「記憶障害」は、忘れっぽくなったりするってことよね。
そうだだっポ。認知症では、新しい出来事を記憶できないことが多くて、ちょっと前に聞いた話もすぐ忘れちゃったりするんだ。
物忘れは認知症ではよく聞く症状のひとつよね。次の「見当識障害」は?
「見当識障害」とは、時間や場所とかの認識がうまくできなくなることなんだ。いまいる場所が分からなくなって迷子になるのも、この障害が引き起こしているんだっポ。
「理解力・判断力の低下」はだいたい想像つくかな?
そうね。あやこさんのお母さんが糖尿病を患っているのに甘いものを食べちゃうのは、きっとそれをうまく理解できないからよね。
病気の認識が薄れたりするのは、「理解力・判断力の低下」のせいじゃないかしら。
その通りだっポ。次の「実行機能障害」は、段取りをうまくつけられなくなることだよ。料理がうまくできなくなったりするのが、「実行機能障害」に当たるね。
最後の「感情表現の変化」は、感情が不安定になって急に泣いたり怒ったりするようになることなんだよ。
中核症状にもいろいろあるのね!
勉強になるわ。
じゃあもうひとつの「周辺症状」は、どういう症状なの?
「周辺症状」は、本人の性格や環境なんかによって引き起こされる症状だけど、認知症になったからといってみんなに起きる症状ではないんだ。
例えば、徘徊や幻覚は認知症になると必ず起こると思われがちだけど、認知症の種類や環境、本人の性格によっては見られない症状なんだっポ。
「認知症の人は徘徊する」っていうイメージが強かったから意外だわ!
排泄物を触ってしまう不潔行為や、興奮しやすい状態も周辺症状のひとつだけど、これも必ず起こるわけではないんだ。
認知症だからってひとくくりにはできないのね。
そうだね。認知症の人の介護で重要なポイントは、認知症の症状には「中核症状」と「周辺症状」があるって理解しておくことだっポ。
認知症特有の症状が出ると、たしかにコミュニケーションを取りづらくなるかもしれないわね。気を付けるべきポイントはあるかしら?
もっとも大事なのは、“認知症を持つ本人が一番つらい”って知ることなんだ。
認知症の人は、自分が忘れっぽくなっているっていう自覚があるから、誰よりも不安で苦しんでいるし、深く悲しんでいるんだよ。
認知症になると何もわからなくなるんだと思っていたわ。
実際は、認知症になった本人が一番傷ついているのね。
そうなんだ。だから、まずは認知症を持つ人の気持ちをきちんと理解することがポイントなんだっポ。
でも理解しようと心掛けても、接し方には悩んじゃいそうだわ。
本人のペースに合わせるのも大切だっポ。
認知症になると、考えることや動作のスピードが遅くなりがちなんだ。焦らせたりイライラさせたりすると、混乱しやすくなってしまうんだよ。
混乱したら不安だし嫌な気分よね。
そういう嫌な感情って、認知症の人にも残るものなの?
そうなんだ。認知症が原因でその出来事を忘れてしまっても、そのときの感情は覚えているものなんだよ。
特に怒られたり急かされたりしたときには、その相手への嫌な感情は覚えているから、信頼関係を気付きにくくなるっポ。
なるほど。あやこさんはお母さまに対して注意をしたから、お母さまには嫌な感情が残っていて会うたびにケンカになってしまったのね。
でも、嫌な感情が残るなら、うれしいとか楽しいとかっていう良い感情も残るんじゃないかしら。
そうだっポ! マイナスだけじゃなくてプラスの感情も残るから、できるだけ笑顔で接することが大切なんだ。
認知症が進んで意思疎通が難しくなっても、笑顔で接する人には穏やかな表情を見せるケースも少なくないよ。
親の気持ちを理解して、良い感情が残るようなコミュニケーションがとれるといいよね。
認知症を持つ本人の気持ちを理解して行動すればいいのはわかったけど、実際に困った場面になったら正しい行動をとれる自信がないわ。
よくあるケースの対応方法を教えてくれないかしら?
例えば、あやこさんのお母さまみたいな「カバンがなくなった」っていう物忘れとか。
カバンとか物の置き場を忘れてしまったケースでは、一緒に探したり代用品を渡したりする方法が有効だっポ。
「財布を盗られた!」っていう物盗られ妄想が見られるときにも、同じような対応が有効なんだ。不安の解消で落ち着くケースも多いよ。
ほかには、本人が気付きやすい場所に置いてあげるといいっポ。認知症になると視野が狭くなりやすいから、目の前にあるのに見えていないことは割と多いんだよ。
本人に寄り添って不安をやわらげるのが大切なのね。
ほかにも徘徊のケースでは、「なぜ徘徊をしているのか」その目的をまず知ることが大切なんだ。
徘徊が見られるときには、一緒に歩いてあげるのもいいんじゃないかな。
自宅にいるのに他人の家だと思い込んで、「自分の家に帰ろうとする」ような徘徊のケースも多いって聞いたわ。
認知症を持つ本人にとって、そこは自宅ではないんだ。その気持ちをまず理解するっポ。
そのうえで別の行動に気持ちが向くような言葉かけを行う必要があるんだよ。
ほかにも、最初は何か目的があって歩いているんだけど、途中で忘れちゃって徘徊につながるケースもあるんだ。
トイレではないところで放尿したり、失禁したりするって話もよく聞くけど、こんな場合はどうしたらいいのかしら?
排泄の失敗は、トイレの場所が分からなくなって失敗してしまうケースが多いんだ。トイレに目印をつけたり、わかりやすい表示を廊下に配置したりするといいよ。
本人の排泄パターンを把握しておけば、トイレに行きそうなタイミングで声をかけたりすることもできるっポ。
つまり、どんな場面でも、まずは本人の気持ちを考えた対応が大切なのね。
そうだっポ! 本人がどういう思いでその行動をしているかを知る、それが大事なんだよ。
逆に、認知症を持つ人にやってはいけない接し方はあるかしら?
主に3つあるっポ。
1つめは、「忘れている」や「事実と違う」に対して否定しないこと。
本人にとっては「忘れている」のではなく「身に覚えがない」んだ。それから事実と違うことも、本人にとっては「本当に起こっていること」。
だから、それを否定すると、悔しさや悲しさといった嫌な思いが残って、家族に不信感を抱いてしまうっポ。
じゃあ、きっと怒るのも同じようにいけないのよね?
そうだっポ。2つめが怒ることなんだ。
本人からすると、身に覚えのないことで怒られている状態なんだ。その結果、不安やストレスが大きくなって、認知症の症状が進んでしまうケースもあるんだよ。
あやこさんのお母さんは一人暮らしだから、あやこさんの自宅に呼んで一緒に暮らしてみるのはどうかしら?
認知症の人は環境の変化に弱いんだ。
だから、3つめのやってはいけないことは環境を変えることなんだよ。それに、いままでしていた家事をすべて取り上げてしまうのもよくないね。
もし環境を変えるなら、本人の馴染みの物を目につくところに置いたり、できる範囲のことをやってもらったりする工夫が必要だっポ。
接し方のポイントはよくわかったわ。
でも、もし認知症介護で悩みがあったら、どこかに相談したいわよね。
すでに介護保険サービスを利用しているなら、担当のケアマネジャーに相談するといいっポ。本人の様子も家族のこともよくわかっているから、とても頼りになると思うよ。
まだ介護認定を受けていなくてケアマネがいなければ、地域包括支援センターで相談できるよ。
できれば同じ悩みを抱えた仲間と話ができれば心強いんだけど……。
家族会や認知症カフェに参加するのもいい方法だっポ。認知症の当事者や家族からの意見はとても参考になるよ。
家族会や認知症カフェなら、リアルな話も聞けそうだし気持ちもわかってくれそうね。いざというときのために覚えておくわ。
自分の親が認知症になると、それまでとの違いから戸惑うことも多いんだ。でも、認知症介護でもっとも大切なのは、信頼関係を築くこと。
認知症を持つ親の気持ちを理解したコミュニケーションを心がければ、症状が落ち着いて穏やかに過ごせる人も少なくないよ。
それでも介護に行き詰まりそうになったり、誰かに相談したいと思ったりしたときには、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターとかに早めに相談してね。
なによりも、お互いに無理のない介護が大切だっポ。
著者:中村 楓
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