実際にあったお悩みに対して、主任ケアマネがアドバイスした事例を紹介するっポ!
今回は、認知症の夫が目を離したすきに出かけてしまうという悩みだよ。玄関の施錠に頼らない徘徊防止策が希望みたい。
もしそのまま行方不明になったら大変だよ。
アドバイスの結果、玄関にある工夫をして外出がわかるようになったんだ。
<ようこさん(仮名)68歳>
認知症で要介護1の認定を受けている72歳の夫がいます。
夫は他人とのコミュニケーションではおかしな発言をしたりしますが、足はまだ達者で歩行に支障はありません。
そのため、わたしが洗濯物を干しにベランダに行っている間などに、ひとりで玄関から出て行ってしまいます。
迷子になったり途中で事故にあったりしてはいけないと思い、気が付くとすぐに探しに行くのですが、かなり遠くまで行っていると見つけられません。そんなときは家で待っていると、しばらくして帰ってくることもあります。
週1回デイサービスに行っていますが、デイサービスでもときどき「家に帰る」と言って玄関から出ていこうとすることがあると聞きました。幸いデイサービスの玄関は利用者が開けられないように施錠されているので、外には出られないようですが。
もし徘徊して迷子になってしまった場合、自宅の住所は言えないと思います。家に閉じ込めるようなことはしたくないのですが、徘徊防止策として本人が開けられないような鍵を取り付けたほうが良いのではないかとも考えてしまいます。
何か良い方法はないでしょうか。
認知症の方が家から出てしまうには、いくつかの理由が考えられます。
認知症で見られる見当識障害では、正しい認識をすることに支障をきたします。そのため、自分の家にいたとしても自宅と認識できず、「自分の家に帰ろう」と考えて玄関から出てしまうことがあります。
そのとき、以前住んでいた場所や子どもの頃に住んでいた場所が記憶のなかに描かれていると、目的の風景を探そうとしてさまよい迷子になってしまうのです。
自宅のなかでも迷子になることがあります。
例えば、トイレの場所が分からなくて玄関のドアをトイレと間違えて開けてしまい、そのままトイレを探すために外に出てしまったりするのです。
定年退職後も「仕事に行く」と言ったり、子どもが小さかった頃の自分に戻って「子どもを迎えに行かなければ」と思ったりすることもあります。
現在の記憶の認識ができず、過去の習慣を再現しようとして外出してしまうのです。
家族の顔が分からなくなってくると、自宅に他人がいると感じるようになることがあります。このような状況では不安が強くなり、あれこれ言われると不満が募ってしまいます。
そのような感情が抑えられなくなると、自分の居心地の良い場所を探そうとして外出につながるのです。
前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉の神経細胞がダメージを受ける認知症です。このタイプの認知症の特徴として、同じことを繰り返すというものがあります。
いつも同じ道を歩き続けたり、同じような動作を繰り返したりします。
また、抑制がきかなくなるため、その行動をするために鍵を壊す、暴力をふるってでも出かけようとするなどの行為が見られることもあるのです。
それに加えて、社会性の欠如が顕著になると、万引きをする、身だしなみに無頓着になるなどが起こります。
そのため、外出時に迷子になるだけでなく他人とトラブルを起こしやすくなり、常に目を離せないタイプの認知症といえます。
デイサービスや入居施設では、利用者の安全を守るためにナンバーロックなどで施錠して、自由な外出ができないようにしているところもしばしば見られます。
しかし、このような対応は本人の思いに反するため、施錠は決して好ましいとはいえません。
ようこさんの意向は、「夫を家に閉じ込めるようなことはしたくない」というものでした。これは本人の意思の尊重であり、認知症の人のケアとしてはとても良いことです。
これらのことから、現状を踏まえて安全に外出ができる方法を提案しました。
ようこさんは炊事や洗濯などの家事をする必要があるので、“夫からひと時も目を離さない”というのは現実的ではありません。
ですが、家事を終えて気が付くと夫がいないという状況があったため、玄関からの外出にいち早く気付ける方法をアドバイスしました。
まず、玄関のドアが開くと音が鳴るようにドアベルをつけました。大きな音はしなくても、台所やリビングで聞こえるようなドアベルです。
それから、玄関の上がり框の部分にセンサーを設置しました。
センサーにはさまざまな種類がありますが、踏んで反応するマットタイプはコードレスでないものが多いため、人が前を通るとチャイムで知らせてくれるタイプを選びました。
電源の確保やコードに引っかかる危険を考慮したためです。
音が鳴る受信機はベランダと寝室がある2階に設置し、洗濯物を干すときにも外出がわかるようにしました。
センサーは、介護保険の福祉用具貸与(レンタル)の対象になっていれば安価で利用できます。
認知症の症状は徐々に進行し、目が離せない状態になります。同居の家族としては、「家でじっとしていてくれれば助かるのに」と思うかもしれません。
ですが、本人にとっては外に出る理由があるのです。
外出の妨害は本人の欲求を押さえつけ、ストレスを増大させてしまいます。
本人は実際に何を思ってどこに行きたいのか。
家族には理解できないことも多いですが、昔話をしながら一緒に散歩すれば、その思いがわかる場合もあります。もしかしたら、本人がいま過去のどの時代にいるのかがわかるかもしれません。
また、うしろからそっとついて行けば、いつも歩く経路や、どこに立ち寄っているのか、自宅の外ではどんな行動をしているのかを知ることもできます。
なるべく気持ちにゆとりを持って、時間が許す限り付き合ってあげられるようにしましょう。
徘徊防止のためのポイントをいくつか紹介します。
目を離したすきの外出対策としては玄関の施錠が挙げられます。門扉も閉めておくようにしましょう。
ただし、これは本人が開けられない鍵をかけることを目的とはしていません。
目的は、玄関から外へ出てしまうまでの時間稼ぎです。同居の家族はこの時間を利用すれば、一緒に出かける準備ができます。
立ち寄り先が把握できたら、地域の人に協力を仰ぐようにしましょう。特に立ち寄り先がお店だと、お金を払わずにトラブルになる可能性もあります。
まずは事情を話し、そのような場合には家族が代わりに支払うなどと伝えておけば、本人の自尊心も傷つかず家族としても安心です。
認知症の人は、いつもは大丈夫でも突然迷子になってしまうリスクがあります。家族が付き添い安全に外出できるのが一番ですが、ひとりで出かけてしまうケースも想定しておきましょう。
備えとしては、本人の顔写真を準備しておく、その日の服装を把握しておくなどが挙げられます。服や持ち物に名前や連絡先などの情報をさりげなく書いておくことも、万一の際には大いに役立ちます。
高齢の行方不明者が出たときに早期に発見できるよう見守りネットワークの事業を行っている自治体もあります。
自分の住む自治体にそのようなサービスがあるかを確認し、申し込んでおきましょう。
自宅が本人にとって心地良い居場所になるような工夫も有効です。
本人が楽しめる趣味を探す、できそうな作業を手伝ってもらう、一緒に買い物に行くなどを続けていると、ひとりで外出したいという気持ちがおさまることもあります。
認知症の方が行方不明になったときに備えて、GPS端末をつけておく方法も有効です。携帯電話やスマートフォンを持ち歩く習慣がある人なら、携帯電話の会社と契約しておくと良いでしょう。
他にもGPS端末には、首にかけられるペンダントタイプや、財布やかばんに入れられるカード型、靴につけられるものなど、さまざまなタイプがあります。
ご本人の行動パターンにあうタイプのGPS端末を選ぶようにしましょう。
どのようなものが合うかがわからない場合には、ケアマネジャーなどの専門家に相談するとアドバイスしてもらえます。
ようこさんの旦那さまは外出時に財布や携帯電話を持たなかったので、これらの持ち物で居場所を調べることは難しいと考えられました。
そのため、上着のうしろに名前とケアマネの事業所を書いた布を縫い付けておくようにアドバイスしました。
本人の住所や電話番号などは、個人情報の観点から人目に付くところへの記載が好ましくありません。
しかし、ケアマネの事務所名であれば、必要時には役所などで連絡先を簡単に調べることが可能です。
幸い、ようこさんの旦那さまはひとりで出かけて迷子になることはありませんでした。ようこさん自身も前もって外出や迷子への対策を立てておいたことで安心感が増し、精神的にゆとりが持てたようです。
認知症の方の外出には何かしらの理由があると理解することが大切です。
無理な抑制はせず、本人も家族も安心した生活を送れるようにしていきましょう。
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