高齢者はなぜエアコンをつけないの?熱中症予防したいのに…【介護・看護のプロが回答】

今回は高齢者がエアコンをつけない問題に関するお悩み事例だよ。訪問ヘルパーのお悩みだけど、介護家族も参考になるから読んでみてほしいっポ。
「93歳の祥子さん(仮名)は、猛暑なのにひとりになるとエアコンを嫌がって消してしまうから熱中症が心配」っていうお悩みだっポ。

この事例は、エアコンに意識が向かないような工夫をして解決できたみたいね。
お年寄りが熱中症になりやすい原因や熱中症の予防対策なんかも詳しく解説しているから夏前のこの時期にぜひチェックしてほしいわ。

相談内容:猛暑なのにエアコンを嫌がる。93歳女性の熱中症が心配です

以前、訪問ヘルパーの方から、ある利用者の女性について相談されました。

そのヘルパーが担当する93歳の祥子さん(仮名)は10年以上前に夫を亡くし、一人暮らしをしています。5、6年前に発症した認知症が徐々に進行し、現在では身の回りの家事などが難しい状態です。
ですが、歩行やその場での会話は問題ないため、デイサービスを利用しながら毎日ヘルパーが訪問して、在宅での生活を続けています。

気温の高い日が続く夏、祥子さんが熱中症にならないように、ヘルパーはエアコンをつけたままにして「1日中つけておいてくださいね」と伝えたそうです。しかし、エアコンが苦手な祥子さんはいつの間にか消してしまい、次の訪問時に室内が高温になっているということが続きました。

自分で消せないようにとリモコンを隠すと、椅子に上がってエアコンのコンセントを抜いてしまいます。椅子から転落する危険性もあり、どうしたらいいのかと相談を受けました。


寺岡純子さん(主任介護支援専門員/看護師)からのアドバイス
祥子さんは「エアコンが気になって仕方がない」といった様子だったので、エアコンに意識が向かないような方法や、肌に直接風が当たらないような工夫をアドバイスしました。
また、認知症の失認という症状を利用しました。コンセントをうまく隠すことによって、椅子にのぼってコンセントを抜くことはなくなりました。
祥子さんのケースだけでなく、多くの方に参考にしていただけるよう、熱中症の危険性や予防法なども併せて解説します。

高齢者は熱中症にかかりやすく、死亡につながる危険も

消防庁の発表によれば、熱中症によって救急搬送された人のうち、約半数が65歳以上の高齢者です(2018年調査)。つまり、高齢者は若い世代に比べて熱中症にかかりやすいといえます。

かかりやすいだけでなく、高齢になるほど入院が必要な症例が増えるという報告もあります。高齢者は高血圧など循環器系の病気や脳梗塞などの脳血管性の基礎疾患を持っていることも多く、容易に生命が危険な状態に陥ってしまうケースも少なくありません。

高齢者にとっての熱中症は死亡原因になる可能性があるため、十分な予防が必要です。

しかし、当の高齢者自身がその必要性を感じていないことが多くあります。熱中症の危険性や予防の必要性を理解していないお年寄りもいるため、周囲の人が協力して熱中症を防ぐことが大事になります。

高齢者はなぜ熱中症になりやすい?その原因とは

人は暑いと感じるときや、運動や活動などで体温が上昇したときには、汗をかいて熱を放散させたり、皮膚に血液を集めて外気中に熱を放散させたりして、体温を下げようとします。そうやって、自然に熱がこもらないように体が働くのです。

しかし高齢になると、若い人と同じようには体が働いてくれません。以下のような理由により、高齢者は熱中症になりやすくなるのです。

  1. 暑さを感じるセンサーが鈍くなり、暑いと感じにくくなる
  2. 体温の調節機能の低下や、体液量が少なく熱の放散がされにくいなどによって、体の中に熱をためてしまう
  3. のどの渇きを感じにくいため、発汗のある夏場は容易に脱水状態になってしまう

また、熱中症で救急搬送される人の多くが、外ではなく自宅で過ごしていることがわかっています。直射日光が当たる屋外でないのは、少々意外かもしれません。

高齢者が自宅で熱中症になりやすい理由のひとつとして、エアコンなどの冷房を嫌がる傾向にあることが挙げられます。
高齢者が冷房の使用を嫌がるのは、体が冷えることを好まなかったり、節電をしたいと思っていたりすることがあるほか、皮膚の暑さを感じるセンサーの働きが鈍くなっているために暑さを感じにくいなどが、理由と考えられています。

このように高齢者は住宅内であっても熱中症になるリスクを抱えているため、熱中症予防が大事になってくるのです。

軽度と重度で異なる、熱中症の症状

熱中症になると、その程度によってさまざまな症状が出ます。初めから熱中症のサインが出ることもあれば、初期症状がなくいきなり重い症状が出現することもあるので注意が必要です。

軽度の症状

軽度の場合は、自覚症状としてめまいや立ちくらみ、顔のほてりを感じたりします。これらの症状が出現したら熱中症の初期症状を疑い、悪化の防止をしましょう。

また、手足の筋肉がつったり、筋肉がピクピクと動いたり、硬くなったりする症状があります。これは熱性けいれんといって、部分的に生じるけいれんです。

このような初期の熱中症は、必ずしも体温の上昇を伴いません。熱中症と気付かないこともあるため、注意が必要です。

重度の症状

倦怠感や吐き気、頭痛がある、脱力感がありぐったりしている、汗が止まらない、または、まったく汗をかかない、体を触ると非常に熱いなどの症状は、より重症度が上がっています。

また、意識状態の確認は熱中症の重症度を見る上では非常に重要で、応答が異常である、呼びかけに反応がないなどの場合は救急搬送が必要になります。

高齢者に熱中症の症状が出たらすること

症状が軽度であれば適切な対応で改善することもありますが、症状の程度が重いと生命の危険を伴うこともあり、場合によっては救急搬送を必要とします。

熱中症の初期症状が出たら、クーラーの効いている涼しい場所で水分と塩分補給を行います。冷たい水分やスポーツドリンクを摂取するようにしましょう。
また、体の熱を放散させて体温を下げるために、衣服を脱がせたりベルトをゆるめたりして、風通しを良くします。

太い血管の通っている首や両脇の下、足の付け根の前の部分などを氷のうで冷やすのも良いでしょう。特に重症の熱中症の場合では、命を救うためにできるだけ早く体温を下げることが重要です。

熱中症の予防対策は「水分補給」と「暑さを避ける」

熱中症予防にもっとも大切なのは、水分を補給することと暑さを避けることです。

十分な水分補給をする

まず、こまめに水分を摂って十分な水分補給をするようにします。高齢者はのどの渇きを感じにくいことも多く、気が付かないうちに体の中の水分が足りなくなり、脱水状態になっていることがあります。

脱水状態になると熱中症をおこしやすくなるため、のどが渇いていなくても定期的に水分を口にする必要があるのです。

声掛けの工夫をする
本人任せにしていると十分な水分が摂れないようなときには、「一緒にお茶にしましょう」「味を見てもらえませんか」など、抵抗なく水分が摂れるような声掛けを工夫していきましょう。

相談にあった祥子さんの場合も水分の摂取が進まず、訪問するヘルパーによって水分摂取の勧め方がまちまちでした。
また、実際にどれくらいの水分が摂れているのかの把握ができていなかったため、熱中症を助長してしまう危険性が大きいことが分かったのです。

そこで、ヘルパー訪問中の水分摂取量を主治医と相談をして決めました。それから、どうすればどのヘルパーが訪問しても同じ量の水分をとってもらえるか、どのように声をかければ抵抗なく水分を摂取してくれるのかを話し合いました。

「ヘルパーが横に座って一緒にお茶を飲むと良く飲んでくれる」という、あるヘルパーによる意見を実行したところ、目標としていた水分量の摂取が可能になったのです。

食事のメニューを工夫する
声掛けの工夫のほか、食事を水分の多いメニューにすることも脱水予防には効果的です。
キュウリやトマト、ナスなど水分を多く含む食材を使用する、焼き物ではなく煮物にする、みそ汁やスープといった汁物を増やすなど、本人の嗜好に応じて工夫すると良いでしょう。

とにかく暑さを避ける

暑さを避けるには、適切な室温を保つことが必要です。暑さを感じにくいお年寄りの場合は、室温が低すぎると寒いと感じてエアコンを消してしまうことがあります。

介護者の体感温度でエアコンを設定しない
ヘルパーは入浴介助などで体を動かすことも多く、自分の感覚でエアコンの温度を下げてしまうこともあるでしょう。
しかし、サービス提供が終了して退室する前には、温度設定を確認して高齢者が寒いと感じないようにしておく必要があります。

薄手の長袖を着用してもらう
肌に直接冷たい空気が触れるとさらに寒さを感じやすくなるので、体に熱がこもらないように薄手の長袖の衣類を着用してもらうようにすると良いでしょう。

扇風機を回しながらエアコンもつけておく
中には、エアコンが嫌で扇風機を使用する習慣が残っている高齢者もいます。
そのような高齢者の場合は、部屋が冷えすぎない程度にエアコンをつけながら、本人が見えるように扇風機を回しておくと、エアコンへの意識が緩和されて扇風機で調節しようとされることもあります。

エアコンやコンセントを隠す
認知症の症状である失認を利用する方法も有効です。
壁に同化するように壁紙に似た色の紙をエアコンの上から貼ったり、エアコンの前にタペストリーのようなものを吊るしたりするなどしてエアコンを隠すことで、その存在が気にならなくなることもあります。

祥子さんのケースでも、エアコンやコンセントが気にならないように壁紙と一体化するように紙で隠すことで、自分で抜いてしまう行為はなくなりました。

よくある簡単な対策もする
また、自宅内での暑さを避けるためにできる簡単な対策として、すだれをして室温が上がりにくくする、直接日が当たる場所には遮光カーテンをかける、家の周囲に打ち水をするなどをすると良いでしょう。

まとめ

熱中症は屋外での活動だけでなく、屋内での日常生活でも発症する危険があります。
普段から熱中症にならないための予防対策をしておくだけでなく、熱中症を疑うような症状が出現したらすぐに水分補給などの対応をして、悪化の防止をするように気をつけましょう。

今回のお悩みは訪問ヘルパーからのものでしたが、介護をするご家族にも参考にしていただけます。特に認知症の方へは、周囲の人が気をつけてあげてください。

この記事をシェアする

著者:寺岡 純子

合同会社カサージュ代表
主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)、看護師、福祉住環境コーディネーター2級、終活カウンセラー1級
8年間の臨床看護を経て、介護保険の開始に伴い介護業界へ転向。全国展開する大手介護事業者で部長職としてさまざまな介護サービスの運営・人材育成を経験する。医療・介護の幅広い知識と経験を多くの介護事業者に届けたいとの思いから独立。現場・事業者・利用者の視点に立ち、介護に特化した研修や事業者・介護者のサポートを行っている。

ハートページナビは、介護保険・介護サービス事業者情報誌「ハートページ」のWebサイトです。
ハートページ誌は、全国約70市区・約100万部を発行する業界最大級の介護情報誌。20年を超える歴史(2001年創刊)、カバーするエリアの広さ、発行部数、各自治体や連絡協議会と連携し制作された信頼性の高さで、介護に関わるみなさまより高い評価を得ています。
ハートページナビでは、介護情報を専門に扱うサイトとして、介護に関わる皆さまに必要な情報、役立つ情報などを掲載しています。

おすすめコンテンツ

メニューを閉じる