生きるために食事はとっても大事だよね。でも認知症の高齢者のなかには食事を拒否する人もいるんだっポ。
食事を拒否したら栄養不足になっちゃう! なぜ拒否するのかを知りたいわ。
<ともこさん(仮名)58歳>
84歳の父と同居しています。父には認知症があり、食事を用意してもなかなか食べてくれません。食べはじめても数口食べて手が止まることや、目の前の食事に箸すら持とうとしないこともあります。
食べてくれないときに私が食事介助をするのですが、まったく口を開けてくれないことも。このままでは栄養不足になるのではと不安です。食事を拒否する理由や食べてくれる方法があれば教えてください。
食事をしてくれないと心配になるよね……。認知症の人の食事拒否にはいろんな理由があるから、その原因や対処法を解説するっポ。
高齢者のなかには食事量が低下する人、食事を摂ろうとしない人がいます。食事は生きていくうえで必要不可欠なため、食べなければ当然ですがデメリットがあります。
食事とは、必要な栄養を摂取して生命を維持する重要な行為で、健康維持や病気予防にもつながります。糖尿病などの病気は食事と密接な関係にあるため、適切な食事をすることで持病のコントロールができます。
もし食事を摂れなくなると、必要な栄養やカロリーが不足して体重の減少や筋力低下が起こります。骨がもろくなり骨折しやすくなったり、持病が悪化したりすることもあるでしょう。
食事には、栄養摂取だけでなく日々の楽しみや生きがいをもたらす効果もあります。食事は絶好のコミュニケーションの機会です。食事が摂れなくなることで、家族とのコミュニケーション機会をひとつ失うことにもなりかねません。栄養不足やコミュニケーション機会の減少で、うつ状態や認知症状が進むこともあります。
「食事拒否」といっても、認知症の人が食事を拒否する方法はさまざまです。それぞれの拒否の原因と対処法について見ていきましょう。
食事を目の前に置いても口を開けようとしない場合には、いくつかの原因が考えられます。まず考えられるのが、体調不良や口腔内の異常です。まずは体調を聞いてみて、体や口の中に異常がないか確認してみましょう。状態に応じて病院や歯科の受診も検討してください。
次に考えられるのが、認知症の進行により目の前のものを食べものと認識できていないケースです。このようなケースの場合は、食事のメニューを伝えたり箸やスプーンを持たせてあげたりすることで、食べはじめることがあります。
口の中や体調に異常がなく、箸を持たせても食べないなら、単純にお腹がすいていないのかもしれません。食事の提供時間を変えてみましょう。
ほかの対処法としては、好きなメニューを取り入れたり食べやすいものに変更したりすることで、食べはじめる人もいます。
箸やスプーンを持たせても食べようとしない場合は、使い方がわからずに困っているのかもしれません。最初の数口を手で一緒に動かしてあげれば、自分で食べられるようになる高齢者もいます。
「毒が入っている」といった被害妄想から食事が進まないことも考えられます。家族が同じものを食べてみせると安心して食べはじめるケースもあるので、対策として覚えておくとよいでしょう。
食べはじめてもすぐにやめてしまうなら、気が散って食事に集中できていない可能性があります。
もしテレビをつけていれば、食事のときには消してみましょう。テーブルの上に置かれた料理以外のものに意識がいって気が散るケースもあるので、食事と関係のないものは何も置かないのもポイントです。
食べものを口に入れたあとに出してしまうなら、次のような原因が考えられます。
・食事の形態が合っていない
・食事の温度が適切でない
・苦手もしくは嫌いな食べものがある
このケースでは、食事をやわらかいものや刻み食にしてみる、温めたり冷たくしたりして適温にするなどの工夫で食べるようになります。
口から出す食べものがいつも同じであれば、その食材が苦手なのかもしれません。メニューから外してみるとよいでしょう。
食べものを口の中にため込んでいる場合は、食材が固すぎて噛み切れていない可能性があります。小さく切ったりやわらかくしたりして食べやすくしましょう。
また、食べている途中で食べていることを忘れる、飲み込むという動作自体を忘れているなども原因のひとつとして考えられます。いつまでも口にため込んでいるようなら、声をかけて飲み込んでもらいましょう。
食べている途中で立ち上がってしまう場合は、食事中であることを途中で忘れてしまう、無理な姿勢のため居心地が悪いなどが原因と考えられます。
気が散りにくいように環境を整え、食事中の姿勢が悪ければテーブルと椅子の距離や高さを調整しましょう。立ち上がってしまったときに声をかけると、また座りなおして食事を続けることもあります。
高齢者の食事が進まないその他の原因として、家族の対応が食事拒否につながっている可能性があります。してはいけない食事介助と正しい対応法を見ていきましょう。
ご飯を食べないからと無理やり食べさせると、誤嚥や窒息を起こす可能性があり危険です。また、食事自体に恐怖を感じてしまい、さらに食べなくなることもあります。
上記で解説した方法を試しても食べない場合には、スプーンや食器などを持ってもらい、自分から食べはじめるのを待ってみましょう。食事の時間を変えてみたり、一緒に食べてみたりする方法も効果的です。
声をかけずに食事介助をはじめると、高齢者は何をされているかわからず恐怖を感じます。被害妄想が強い人であれば、毒を盛られていると思って不信感が強くなることもあるでしょう。
介助の際には必ず声をかけるようにしてください。メニューや食材を伝えると、食べられるものだと認識しやすく安心感を与えられるでしょう。
椅子とテーブルの位置バランスが悪いと、姿勢が悪くなり食事がうまく摂れなくなります。また、料理が見えにくく食事だとわかりにくい、見える品ばかりを食べてしまうなどの可能性もあるでしょう。
椅子は両足がしっかりつく高さにし、少し前傾の姿勢がとれるようにすると、誤嚥もしにくく食事がしやすくなります。
虫歯や歯周病、入れ歯が合っていないなどの理由が、食事の拒否につながることはよくあります。
口腔内の健康を保つためには、毎食後に歯磨きをします。もし、治療や入れ歯の調整が必要であれば、歯科受診をするとよいでしょう。
食事は人が生きていくうえで必要不可欠な行為ですが、認知症の人が食事を拒否する背景にはさまざまな原因があります。まずは食べない様子を観察して、それからそれぞれの原因にあった対処法をとるようにしましょう。
安心して食事ができる環境を整えると、食事拒否も少なくなっていくと思います。
著者:中村 楓
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