「もしかして認知症?」と思っても、本人が受診を拒否するケースがよくあるみたい。
家族としては不安だから、ちゃんと病院に行ってほしいなあ。
<ゆうじさん(仮名)50歳>
最近、75歳の父親が約束していたことを忘れるようになったので、もしかしたら認知症になったのではと心配です。
財布をどこかに置いて見つからなかったり、「誰かが盗みに来ている」と言って騒いだりすることもあります。曜日がわからないと言いますし、買物に行くと同じ物を繰り返し買ってきます。それに、お風呂に入るのを嫌がるようにもなりました。
病院へ受診してみようと言っても、「俺はまだボケていない」と怒り出して拒否されます。どうすれば受診して、認知症の検査や診断を受けてもらえるでしょうか。
怒って拒否されちゃうと、それ以上は説得しにくいっポ……。なぜ受診を嫌がるのか、拒否されにくい勧め方を認知症介護のプロが解説するよ!
認知症の方の受診拒否には、大抵、ご本人にとってそれなりの理由があります。拒否する方にご家族が受診を促すためには、ご家族がまず認知症という病気について知ることがキーポイントとなります。
認知症になると、「短期記憶」と言って一番最近の記憶が消えてしまうことや、全部でなくても記憶のところどころや一部分が消えてしまうということが起きます。そして徐々に物事を理解する力もなくなってくるので、ご家族や周りの方々の会話の内容が正確に理解できなくなり、説明されると理解したふりや取り繕いで、その場をしのごうと必死になります。
自分自身を取り巻く状況や、自分の体調が悪いことなども、自覚したり伝えたりすることが難しくなるのです。
それは社会人として、夫として、子の親として、これまで立派に生きてきた自分を失うことですから、「忘れてしまう」という現実を受け入れるのはとても恐ろしく、それをご家族から言われるのは、耐えられないほど辛いことなのです。
認知症の方のご家族には、ご本人に対して「してはいけないこと」があります。その「してはいけないこと」をしてしまうと、ご本人の拒否が強くなり受診してもらえないばかりか、ご家族の言うことをまったく聞いてもらえなくなり、お手上げ状態になってしまう可能性もあります。
認知症の方に「してはいけないこと」とは、以下の3点です。
ご本人は記憶障害や理解力の低下で説明されても理解が難しく、覚えてもいないこと、何故とがめられるかわからないことに対して、周囲の人からあれこれ言われても嫌がらせにしか思えません。
その上、言われたこともそのうち忘れ、残念なことに嫌な感情だけが残り、「嫌な人」という印象になってしまうのです。
当然、「嫌な人」の勧める受診をする気持ちになるはずもなく、受診拒否は強くなります。
認知症は早期発見・早期治療が大切です。ですから周囲の人が「あれ、何かおかしいな」と気が付いたら、なるべく早く受診できるようにして、受診までの期間をあまり置かないようにしましょう。
認知症は、さかのぼれば20年くらいの年月の内に、脳が委縮したりさまざまな病気になって発症しているケースも多くあるのです。ちょっとしたもの忘れ、と軽く受け止めず、軽いからこそ専門機関のもの忘れ外来などに相談されることをお勧めします。
専門機関とは、「認知症疾患医療センター」という自治体から指定された病院の脳神経内科や精神科、認知症サポート医の認定を受けた医師が勤務する医院などのことです。
認知症サポート医とは、国の研修を受けて認知症の診断ができる専門医で、脳神経内科だけでなく、内科医や精神科医も認定されています。
もし地域の専門機関がわからないときは、医師会や行政、地域包括支援センターに問い合わせると教えてもらえます。
近隣にある総合病院の脳神経内科で認知症診断を受ける方も多いですが、認知症が進行して「周辺症状」という家族が困るような症状が出てくると、一般病院の脳神経内科では対応が困難です。
認知症疾患医療センターや認知症サポート医に認定されている専門医に、治療の相談が必要になるでしょう。
認知症は、記憶障害などを引き起こしている原因になる病気があり、さまざまな病気が考えられます。
血液検査で調べられる甲状腺機能障害や葉酸欠乏症等が原因の場合や、脳のMRI検査や長谷川式検査、MMSEテストなどによってわかる脳の萎縮や脳血管性の障害など、原因を明らかにしないと適切な治療は期待できません。
脳の病気だけでなく、内科的な病気や精神的な病気からも、認知障害は起きるからです。
また、脳のMRI検査では、脳のさまざまな病気を見つけることができますが、認知症状が進行してくると音や光に敏感になるためMRI検査ができなくなることも多く、症状が軽度の内に検査を受けておくと良いでしょう。
検査の結果、脳に異常は見られず、精神病やウツが進行して認知障害を起こしている場合もあり、認知症の治療ではない“適切な治療”が必要なケースもあります。
では、認知症のご本人に家族はどのように接して受診を勧めればよいのでしょか。なるべくご本人が理解しやすく受け入れやすい理由を簡潔に話して、受診を勧めることが第一です。
しかし、そのときの伝え方にも注意点があります。ご本人が自覚していない場合は、「もの忘れの相談」とか「認知症だから」「認知症になったから」などを受診の理由にしてはいけません。たちまち拒絶され、受診が困難になる可能性もあります。
そもそも、自らもの忘れの病気だ、認知症だと自覚できないことが、認知症の症状なのです。
受診の勧め方としてよく使われるのは、「〇〇歳になったので、隠れ脳梗塞も心配だから予防で検査を受けておこう」という理由です。
ほかにも、「保険を使うために検査が必要だから」、「申請すると費用が軽減される制度があるけど診断書が必要だから」、「認知症にならないために予防しよう」など、必要性やお得感、予防という理由づけは理解しやすく受け入れやすいでしょう。
かかりつけ医があれば、まずご家族がかかりつけ医に相談しましょう。認知症の検査であることを伏せてもらいながら、かかりつけ医からご本人に「生活習慣病の予防だから」と検査を勧めてもらうようにするのも方法のひとつです。
かかりつけ医に紹介状を書いてもらう場合は、宛名が地域の認知症疾患医療センターや認知症サポート医の勤務する医院であることもおすすめします。
認知症の診断が出ることによって、家などの財産を処分する必要がある場合は、後見人のことも考えなくてはならないでしょう。
成年後見制度には、任意・補助・保佐・後見と、手続きや本人の判断能力に対して援助内容が異なるタイプがあります。
将来的に後見人契約を結ぶ公正証書による任意後見、そして補助・保佐・後見の法廷後見の申請には医師の「後見人が必須と認められる内容の診断書」が必要です。
法廷後見の申請は、診断書の内容によっては家庭裁判所で却下される場合もあるので、軽度の認知症であれば最近は家族信託を希望される方もいらっしゃるようです。
それでは受診拒否の方への受診への促しと、認知症診断や治療を受ける専門機関の病院を選ぶときのポイントをまとめてみましょう。
・認知症かもしれないと感じたら、周囲の人は指摘したりとがめたり説明したりして高齢者を追い詰めず、否定しないで受け止め、笑顔で接しましょう。
・受診を勧めるときには、高齢者が自ら認知症のための受診を希望していない限り、「○○の予防」「制度の利用のため」といった理解しやすい、そして不安感を持ちにくい理由で受診を促しましょう。
・かかりつけ医がある場合は、先に家族が相談し、医師から「○○歳になったから予防に」と、専門機関への検査受診を高齢者に促していただくようお願いしてみましょう。
・認知症の検査を受けるには、できれば認知症疾患医療センター指定病院や認知症サポート医を選びましょう。
・脳のMRI検査を医師に勧められたら、認知症が軽度の内に一度は検査を受け、専門医に診ていただきましょう。
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