日本人の多くが悩んでいる症状のひとつが腰の痛み、つまり腰痛だっポ。
特に介護をしている人は、かがんだり中腰になったり、人を持ち上げたり動かしたり……けっこう腰に負担がかかっているんだよ。
そうね、気をつけないと慢性的な腰痛持ちになっちゃいそうだわ。
予防や対策方法はあるのかしら?
<まりこさん(仮名)60歳>
現在82歳の父は5年前に脳梗塞を発症しました。左麻痺が残り、立ち上がりや移乗には介助が必要な状態です。主に同居のわたしが父の介護をしています。
父は車椅子で移動はできるものの、動くのを嫌がって寝てばかりの生活です。
尿意や便意はありトイレで排泄したいという思いも強いため、日中はベッド横のポータブルトイレを使用しています。
そのたびに何回もトイレに呼ばれて170センチ65キロの父の体を抱えなければなりません。
腰に負担がかかり腰痛持ちになってしまいました。何か対策があったら教えてほしいです。
腰痛はつらいっポ!対策を解説するから参考にしてね。
介護の動作には腰痛を引き起こす原因がたくさん潜んでいます。
腰痛となる原因は主に3つです。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
介護の動きには、前かがみや中腰、体をひねる動作がたくさんあります。
そのため介護者の姿勢が悪いと、腰への負担が大きくなって腰痛を引き起こしてしまいます。
例えば、立った状態のまま低い姿勢で介助を行うと、腰を大きく曲げなくてはなりません。
また、移乗の動作などで高齢者を抱えるときには、お互いの距離が離れていると必要以上の力が必要です。
力がいらないと思われがちな食事介助の場面でも、上半身だけひねる姿勢になるため腰への負担は大きいといえるでしょう。
介護をする人が小柄で介護を受ける人が大柄だと、体格差をカバーするだけの力が必要です。そのため腰を痛めやすくなります。
また、寝たきりで拘縮(こうしゅく)がある人の介助は工夫を要するため、慣れないうちは不自然な姿勢になったり必要以上に力が入ったりしがちです。
介護施設であれば、居室やトイレなどには介護がしやすい広さがあります。しかし自宅は健康な人の暮らしを想定していることがほとんどです。
特にトイレには十分なスペースがない家も多く、介助をすると無理な体勢になりがちです。
また自宅での車椅子介助は、廊下や部屋が狭くなって介助がしにくいために腰を痛めてしまうこともあります。
介護の腰痛を予防するには、まず介護時の姿勢と環境を整えましょう。
介護の動作による腰痛を予防するためには、基本姿勢を覚えておくことが大切です。
介護時には次の6つに気をつけるよう心がけましょう。
介護腰痛を予防するためには、生活環境にも目を配る必要があります。
腰痛のほか、ケガなどをしないよう介護しやすい環境を作りましょう。
ポイントは次の3つです。
床・空間
ベッド周りや廊下など、介護をする場面が多い場所にはものを置かないようにしましょう。十分なスペースがないと無理な姿勢になってしまいます。
また、床が滑ると転倒などの危険があります。絨毯を敷くなどの工夫をするとよいでしょう。
照明
夜間や薄暗い部屋では、ついつい暗い中で介護しがちです。しかし、暗い中だと周囲の状況がよくわからずに無理な体勢になってしまうことがあります。
また、足元や周囲に目が行き届かず思わぬケガをすることもあります。照明をつけ明るいところで介助するようにしましょう。
服装
介護をするときは動きやすい服装にしましょう。服がきついと体を動かしにくいですし、装飾などがあると服が気になって動きにくくなってしまいます。
結果、腰痛を防ぐ姿勢をとれない可能性があります。
また、気をつけたいのが足元。家の中でスリッパを履くという人は、滑り止めがついたものやかかとがあるものが安心です。靴下も滑り止めがあった方がよいでしょう。
腰痛を軽減する介助方法を身につけましょう。
腰を痛めやすい介護動作と腰痛を軽減する介助方法は次の通りです。
移乗介助には、前かがみや中腰、腰をひねる動作が含まれ、介護の中でもっとも腰を痛めやすい動作といえます。
可能な限り、できることは本人にやってもらいましょう。
また、抱えるときや方向を変えるときには、足を開いて腰を落とすと腰への負担が軽くなります。
対象者が寝たきりの場合は定期的に体の向きを変える体位交換が必要ですが、腕の力だけでやろうとすると腰を痛めてしまいがちです。
足を開いて腰を落とし、全身の力で体位交換をするようにしましょう。
可能であれば、対象者に柵を持ってもらったり腰を浮かしてもらったりを自分でやってもらうと、介護者の負担が少なくなります。
声を掛けて、できる動きはやってもらうようにしましょう。
また、ベッドの高さが低いときには高さを調整します。
浴室は足元が滑りやすいため、介助時には必要以上に力んでしまい腰に負担がかかります。
高温多湿の中での介助は疲れやすく、また水に濡れて体を冷やしてしまうことも、腰痛を引き起こす原因です。
入浴介助をする際には、足元が滑らないように滑り止めマットを利用したり、手すりやシャワーチェアなどの福祉用具を活用したりして、安全に介助ができる環境を整えましょう。
トイレでの介助は、狭い空間で体を抱えたり中腰になったり体をひねったりするため、腰を痛めやすくなります。
腰痛を軽減するためには、自分でできることは本人にしてもらい、必要な部分だけ介助するようにしましょう。
足元に滑り止めマットを敷く、手すりなどの福祉用具を活用するといった工夫でも介助負担の軽減が可能です。
寝たきりの要介護者で、もっともよく行う介護の動作がおむつ交換です。おむつ交換は前かがみの姿勢をとらざるを得ないため、腰痛を引き起こしやすくなります。
おむつ交換をするときには、ベッドの高さを調整すると腰を痛めにくくなるでしょう。
また、体を動かせる人であれば、柵を持ってもらうのも腰痛予防に有効です。
ベッドのシーツ交換も腰に負担がかかる動作のひとつです。
もしベッドの高さを変えられるなら、腰をかがめない高さに調整してからシーツ交換を行ってください。
また、ひとりでのシーツ交換は腰への負担が大きくなります。高さ調整ができなければ、ボックスシーツを利用する、家族と一緒にシーツを交換するなどで、腰の負担を軽減できます。
食事介助は腰への負担が少ないと思われがちです。しかし、姿勢によっては腰をひねる動作をするため、腰を痛める可能性があります。
食事介助は体全体を対象者に向けるようにして、腰をひねらない姿勢を心がけましょう。
介護動作が原因の腰痛は、ストレッチやグッズの利用で症状の緩和や予防ができます。
ここでは、おすすめのストレッチとグッズを紹介します。
ストレッチをすると、筋肉の血流量が増えて疲労回復に効果があるだけでなく、リラックス効果も得ることができます。また、筋肉の柔軟性が増すので、ケガの予防にも役立ちます。
手すりやテーブルに手をついて、太ももやふくらはぎを伸ばす方法が手軽に取り組めるでしょう。
手すりを片手で持ち(もしくは片方の手をテーブルに)、もう片方の手で背中側から同じ側の足先を持つと太ももの前面を伸ばせます。
手すりを両手で持って(もしくは両手をテーブルに)アキレス腱を伸ばすと、ふくらはぎのストレッチになります。
寝た状態でできる簡単なストレッチには、仰向けで両方の足の裏をついてお尻をあげる、仰向けで両膝を抱えるものなどがあります。
ただし、どのストレッチも痛みが出ない範囲で行い、痛みが出たら速やかに中止してください。また、腰痛がひどい場合には、医師やリハビリの先生に相談したうえで適切なストレッチをするようにしましょう。
福祉用具には、以下のように介護者の腰痛予防に役立つグッズもあります。
必要に応じて活用しましょう。
スライディングボード
スライディングボードとは、車椅子とベッド間などの移乗で使う福祉用具です。
立ち上がりはほぼ全介助でも、手すりを持てばある程度の座位姿勢を保てる人であれば使用することができます。
スライディングボードを使用すれば対象者を抱えずに体を滑らして移乗できるため、腰を痛めにくくなります。
スライディングシート
スライディングボードと似た福祉用具に、スライディングシートがあります。
ナイロンなどの滑りやすい素材が筒状に縫製されたもので、座位姿勢をとることが難しい寝たきりの人を移乗するときや、ベッド上の移動、体位交換で使う福祉用具です。
スライディングシートは対象者の体を小さな力で楽に動かすことができるため、腰の負担が軽くなります。
福祉用具として販売されていますが、大きなごみ袋を筒状に切って代用する方法もあります。
補助ベルト
補助ベルトとは、移乗介助の負担を軽くするために使われる福祉用具です。
移乗用と入浴用があり、移乗用は福祉用具貸与(レンタル)、入浴用は福祉用具販売の対象となっています。
ただし、移乗用は普通に購入しても3,000円程度なので、福祉用具貸与での取り扱いはあまり多くありません。
一方、入浴用は福祉用具販売店でさまざまな種類が用意されています。
実際にどの商品を選ぶかは、ケアマネジャーや福祉用具販売員とよく相談して決めるとよいでしょう。
介護には腰痛になりやすい動作がたくさんあるため、腰に負担をかけない工夫が大切です。
介護時の姿勢や環境を整えるだけでなく、ストレッチで普段から筋肉の柔軟性を保つようにしましょう。
また、スライディングボードや補助ベルトといった手に入れやすい福祉用具も活用すると、腰の負担が和らぎます。
日々の生活に影響のないように、普段から腰痛予防に努めましょう。
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