デイサービスに行く目的のひとつに入浴があるよね。
でもお風呂を嫌がって入らない高齢者も少なくないみたい……。
入浴してくれるようなすすめ方ってあるのかな?
<みさえさん(仮名)55歳>
父母は夫婦二人で住んでいましたが、1年くらい前に父親が亡くなり、81歳の母は一人暮らしになりました。
母はその後体調を崩し、介護保険を申請すると要介護1に認定。現在は訪問介護とデイサービスをそれぞれ週2回利用しています。
デイサービスを利用する目的のひとつが入浴です。自宅ではお風呂にあまり入れていないのでデイサービスで入浴をお願いしたのですが、嫌がってなかなか入らないようです。
デイサービスで拒否せず入浴してもらうことは可能なのでしょうか。
お風呂に入ってもらうためには、まずは高齢者の生活習慣や希望を知ることも大事かもしれないっポ。
高齢者にとっての入浴は、現在の感覚とは少し違っているのかもしれません。
かつて庶民の自宅に浴室はなく、銭湯に通うのが一般的でした。
大きな家であれば藁ぶき屋根の別棟に薪で炊ける五右衛門風呂があったりしましたが、多くの庶民は毎日の入浴が難しく、銭湯に通えない日は大きな桶にお湯を張って湯浴みをしたりもしていたようです。
一方、現在ではほとんどの自宅に浴槽があり、毎日の入浴が当たりまえです。
環境の異なる今と昔では当然入浴回数に違いがありますし、自宅にお風呂があった人と銭湯通いをしていた人でも違ってきます。
つまり、過去の経験などから生活習慣の価値観は人それぞれです。
何を清潔と感じ、どんな入浴を好んでいるのかは高齢者によってさまざまですから、その価値観や好みを知ることがポイントなのです。
そのことがよく理解できる事例をひとつ紹介しましょう。
例えば、デイサービスでこんな事例がありました。
以前、なかなか入浴してくださらない80代後半の女性に、さまざまな思い出話をお聞きした流れで入浴時の好みを聞いてみたことがあります。
入浴についてのリクエストや嫌な理由をじっくりお聞きすると、意外なお返事が返って来ました。
その女性は入浴そのものが嫌だったわけではなく、「シャワーが嫌い」だったのです。
なぜシャワーが嫌いなのかを尋ねると、まず水が跳ねてあちこちに飛び散るのが気に入らない、次に大きな音が耳障りでゾッとする、というのです。
そして、安心できるのは「昔風に浴槽にお湯だけが張ってあり、身体を洗うときも浴槽から桶でお湯を汲んで入るようなお風呂」なのだと話してくださいました。
「そういうお風呂を用意したら、入ってみますか」とお聞きすると、「本当にそんなお風呂にしてくれるなら入ってもいい」というお返事をいただき、その後はデイサービスで入浴していただけるようになりました。
ただし、この女性のリクエストに応えられたのは、浴槽にお湯を張って、そのお湯を汲んで身体を洗えるような、個浴用の浴槽がそのデイサービスあったからです。
もちろん個浴用の浴槽があっても、デイサービス側の都合によって対応できないかもしれません。
このように、入浴を拒否するのは本人なりの理由があります。ひとつひとつ丁寧に話を聞き、不安や抵抗感を減らしていくことも大切でしょう。
もしデイサービスにリクエストがあれば、まずは生活相談員に相談してみてください。
入浴を嫌がる方の多くは、家族やデイサービスの職員がどんなに入浴のよさを伝えても、「それでもお風呂には入りたくない」とおっしゃるものです。
入浴を嫌がる理由は、「男性のスタッフは嫌」、「日の高い時間にお風呂に入る習慣はない」、「大勢の入るお湯には入らない」など、さまざまです。
お風呂に入ることは羞恥心を伴うデリケートな行為なので、高齢者でなくても誰であっても要求や希望は少なからずあるでしょう。
その要求を無視するのではなく、気持ちに寄り添うことが大切です。
もちろんデイサービスの体制にもよりますが、男性スタッフの介助を拒否する方は女性スタッフに変えてもらったり、浴室内にパーティションを設置してもらったりするなど、プライバシーを守ってもらうことも解決策のひとつです。
昼の入浴に抵抗のある高齢者であれば、他の利用者に「お風呂に行こう」と誘ってもらい、みんなで入浴する楽しさを感じてもらう方法もあります。
一度は断ったとしても、他の利用者からのお誘いに徐々に気持ちが傾いていくようなケースも実際にあるのです。
「大勢の入るお湯には入らない」なら、一番湯もしくはシャワーを選んでもらうのも有効でしょう。
他にも、果物の香りや季節感のある入浴剤を入れるだけで、入浴への意欲が変わる高齢者もいらっしゃいます。
ただし認知症の方の場合は、しつこく説明したり、入浴したくない理由を聞いたりして追い詰めるのは好ましくありません。
何か楽しいことをお話しているうちに、「気が付いたらお風呂に入ってしまった」というアプローチをしてもらえるとよいかもしれませんね。
高齢者は、“医療的な処置”を主軸にした話にすると受け入れやすくなる傾向があるのでおすすめです。
例えば、「高齢になると皮膚の痒みとかトラブルが多いので、デイサービスで看護師さんに見てもらいましょう。家では分からないから」とおっしゃってみて下さい。
または生活相談員と事前に相談し、「看護師に皮膚を見てもらいましょう」と伝えます。
浴室の着脱室で服を脱いでもらったら、看護師から「洗い流して清潔にしてから、薬でも塗りましょう」と伝えてもらうのもよいかもしれません。
不思議なことに看護師の“医療的な処置”にからめると、受け入れてくださることが多いのです。
デイサービスでの入浴に関する悩みは家族だけでは解決できませんし、デイサービスの体制によってできること、できないことは異なります。
家族は、高齢者に入浴が嫌な理由を丁寧に聞いたり、生活相談員などに相談したりしながら解決方法を探りましょう。
高齢になると、お風呂ひとつとってもリスクがあります。
気温や室内の温度差で血圧の数値が変動して、自宅のトイレやお風呂場で具合が悪くなる高齢者も少なくありません。
体調が悪いときはもちろん、寒い時期の室温と浴室の温度差などには特に注意が必要なのです。
高齢者にはそんなリスクがあるからこそ、デイサービスでの入浴がおすすめです。
入浴には、清潔を保てる、血液の循環がよくなる、リラックスできるなどさまざまなメリットがありますが、デイサービスならではのメリットを2つ紹介します。
デイサービスでは、入浴前に血圧や脈、体温などをチェックします。温度調整が効いた浴室で、看護師に体調管理してもらいながらの安心した入浴が可能です。
高齢者の中には、気に入った服をなかなか着替えず、着替えても洗濯の済んでいない服をローテーションで繰り返し着用する方もいます。
デイサービスでの入浴が服を着替えるきっかけになるのも、実は大きな利点といえるでしょう。
高齢者があまり着替えないことがあるのは着物文化のなごりかもしれません。とはいえ、汚れや臭いのある衣服ではご家族も不快な思いをしてしまいます。
「デイサービスは社交場ですから」と着替えるために服を用意し、高齢者なりのファッションも楽しんでいただきましょう。家族が服選びを手伝うのもよいかもしれませんね。
お風呂は清潔な衣服に着替えるきっかけになり、その人なりのおしゃれを楽しむことにもつながります。
高齢者にとって、自宅での入浴はときにリスクとなるため、デイサービスで入浴してもらえると安心です。しかし拒否があると、そのハードルは高いかもしれません。
入浴を嫌がる高齢者には、心遣いも必要になるでしょう。
デイサービスによっては設備やスタッフのアプローチも異なるので、入浴をお願いするときにはよく相談されることをおすすめします。
著者:葦江(よしえ)
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