3月にデイサービスや特別養護老人ホーム(特養)などの施設で行われるレクリエーションやイベントといえば、「ひな祭り」ですね。ひな祭りは日本古来の行事で、女の子のいる家庭では雛人形を飾りすこやかな成長を願ってお祝いします。
子どもの頃は、年に数日だけしか目にできない雛人形を楽しみにしていたという高齢者も多いのではないでしょうか。
デイサービスのひな祭り事例について、主任ケアマネの寺岡さんが教えてくれるっポ。
ぼくは男だし娘はいないから、ひな祭りは縁遠いイベントだよ。男性でも楽しめるものなのかな?
デイサービスや老人ホームなどでは、ひな祭りのレクリエーションが盛んに行われます。その理由のひとつに、創作やゲーム、歌などのレクの種類が豊富で、それぞれの施設で工夫を凝らしてできることが挙げられます。
たとえば、お雛様作りは簡単にできます。
画用紙にお内裏様・お雛様の顔や装飾品を描き、紙コップやプリンなどの空き容器に貼ります。胴体の部分には千代紙を貼るだけで完成です。
ご利用者の心身の状況に応じて、顔を描く人、はさみを使って切る人、貼り付ける人などに役割を分担し、協力しながら作っていくのもよいでしょう。
出来上がったお雛様は飾っておくだけでなく、輪投げや的あてなどのゲームにも活用できます。
輪投げなどは、距離を変えればさまざまな身体状況に対応可能です。高齢者が楽しみながら体を動かせるので、デイサービスや老人ホームには最適なレクリエーションでしょう。
また、ひな祭りの歌はたくさんの人が知っているので、知的活動を促すレクへの活用が可能です。
ひな祭りの歌は普段の生活ではあまり口ずさむことはなく、なかなか思い出せないかもしれませんが、それでも歌詞がわかれば意外に歌えるものです。
ひな祭りで回想法を行うのもよいでしょう。回想法とは、思い出などを語り合うものです。
ひな祭りの思い出がないご利用者には、ひな祭りから連想される言葉を考えてもらうのもよいかもしれません。
あまり意識していないもの、思い出がないようなものに対する連想は難しく、それが脳トレの役割を果たします。
また、ひな祭りの食事といえばちらし寿司に蛤のお吸い物が代表的ですが、ちらし寿司はご飯を混ぜ合わせたり、トッピングを自分でしたりと簡単に食事レクが行えるのがいいですね。
この他にも、桜餅作りなどのおやつレクも盛んに行われています。
ひな祭りは子どものイベントではないのかと思うかもしれませんが、高齢者でも特に女性は楽しんでもらえます。ですが逆に、男性にどうやって楽しんでもらうのかが鍵になります。
以前デイサービスで、ちょっとしたきっかけである高齢者男性の意識が変わり、ひな祭りのイベントが大いに盛り上がったことがありました。
そのときのエピソードをご紹介します。
まことさんは脳梗塞で左半身に麻痺があります。定年退職するまでは営業関係の仕事をするなど、もともと社交的で話し好きだったそうですが、病気をきっかけにすっかり気力が低下してしまったようです。
デイサービスにはちょうど1か月くらい前から通っていましたが、レクリエーションなどへの参加は消極的でした。
ただし、リハビリは熱心に取り組んでいたのと、クイズなどではよく発言が見られていました。
どうやったらデイサービスにいる時間を楽しんでもらえるのかが課題でしたが、そんなある日、まことさんのご自宅に伺った際に部屋にパソコンがあるのを見つけました。
パソコンが使えるかを聞いたところ、病院を受診した結果や主治医と話したこと、説明を受けたことをまとめて記録したり、病気についてインターネットで調べたりするなど、パソコンはかなり使えるようです。
そのとき、デイサービスへの率直な気持ちも話してくれました。
デイサービスではリハビリをして麻痺を改善したいし、クイズなどの知的活動で認知症予防もしたいけれど、幼稚なレクには参加したくない、とのこと。
そこで、「今度ひな祭りのイベントをするので、そのときに使うクイズを作ってもらえませんか」とお願いしてみました。
すると、まことさんは「家にいても退屈しているからいいよ」と2つ返事で引き受けてくれ、そのときにすこし嬉しそうな表情をされていたのが印象的でした。
毎日少しずつ取り組んでもらえるようにお願いしたところ、ひな祭りのイベントに間に合うようにと50問ものクイズを作ってきてくれました。しかも、難易度を変えてどんな人でも楽しめるようにしてみたとのこと。
ひな祭りの専門家みたいに知識を得たと笑っておられ、「営業の仕事では相手にあった提案をすることが大事だからね」と、流石の視点にスタッフ一同驚きと感謝しかなかったのです。
こうなると、まことさんもひな祭りイベントのスタッフの一員です。
本人にもそのことを伝えると「何をすればいい?」との返答。「壁画作りの創作レクのお手伝いをして欲しい」とお願いしました。
左手が不自由なまことさんは、はさみを使ったり紙を折ったりするのになかなか苦労されたようです。
ひな祭りイベントの当日には、男性のまことさんがクイズの解説をしたので、参加していた他の利用者さんはびっくり。
それに感化されて他の男性利用者も負けじとウンチクや昔話を始め、男女共に大いに盛り上がるひな祭りイベントになりました。
ひな祭りのイベントで初めてまことさんは創作レクに参加されましたが、それもリハビリなのだと気付かれたようです。
遠目で見ていると幼稚に見えるかもしれない創作レクですが、やってみるとその意味がわかります。
体を動かす運動はリハビリとして好まれますが、実は巧緻性を必要とするような創作レクが日常生活を送っていく上では重要なのです。
まことさんはこのひな祭りのイベントをきっかけに、創作レクにも積極的に参加されるようになりました。
ひな祭りは、女性はもちろん、男性でも兄弟や自分の子どもに女の子がいればお祝いをしたことがあるでしょうし、多くの人に馴染みのある行事です。
子どもの頃の自身の思い出や自分の子どもに関するひな祭りの思い出話など、懐かしみながら話をすることで脳を活性化させる効果もあると言われています。
デイサービスや老人ホームといった介護施設のレクリエーションでは、ひな祭りなどの季節行事をしたり高齢者に昔を振り返ってもらったりして、楽しみながら脳を活性化させる内容を取り入れるとよいでしょう。
著者:寺岡 純子
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