政府の緊急事態宣言を受けて、外出の自粛や一部の業種に休業要請が出されているなか、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議によって、以下のような提言がされています。
感染が流行している地域においては、福祉施設での通所サービスなどの一時利用を制限(中止)する等の対応を検討すべきである。(※一部略)
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年4月1日)
これを受けて、自治体が通所サービスなどに休業要請を行う可能性が出ていますが、現在のところ、デイサービスの休業要請に至っている自治体はないようです。
しかし、千葉県の障害者施設の大規模な集団感染をはじめ、老人ホームや通所施設、訪問介護など、新型コロナウイルス感染症のクラスターは福祉施設や介護事業所でも増加傾向にあるのです。
このように介護施設がクラスターになりうる可能性は非常に高いため、デイサービスやショートステイでは新規の利用者を受け入れない施設も出ています。
また、政府の改正新型インフルエンザ等対策特別特措法に基づく「緊急事態宣言」の発令を受けて、介護施設でも部外者の出入り制限がさらに厳しくなっています。
実は、私自身もその影響を受ける一人です。私は介護施設から研修を依頼されることも多いのですが、新型コロナウイルスが流行しはじめてからは4~6名程度を対象にした少人数の研修のみとなりました。それが、緊急事態宣言の発令を受けてすべての研修がキャンセルになり、再開の目途も立っていない状況です。
私のような部外者だけではなく、介護施設では家族の面会制限も引き続き継続しています。このまま制限が続けば、入居者と数か月以上も面会できない家族が出てくることでしょう。
感染拡大を防止するには「3つの密」を避けることが重要だとされており、「3つの密」とは以下を指します。
デイサービスはまさしくこの三密にあたる場所です。しかもデイサービスは、入所施設と比べるとご利用者の行動範囲や接触する人の数が多いのが特徴といえます。つまり、職員も利用者も、感染するリスク、感染源となるリスクが非常に高いのです。
デイサービスではフロアに加えて送迎の車内など密接場面が多くあり、デイサービスが三密であることは職員も十分に理解して危機感を持っています。また、自分自身がご利用者に感染させてしまうかもしれない、また利用者から感染するかもしれないという強い不安もあります。そのため、デイサービスで働く職員の間では、休業を望む声が増えているのです。
このほか、感染の不安だけではなく、職員の身体的な負担が大きくなっている介護現場もあります。学校の休業などによってやむをえず休む職員がいると、出勤している職員に負担が集中するからです。
このように、心理的な負担に加えて身体的な負担も大きくのしかかれば、職員が休業を望むことも無理はありません。
感染拡大の不安から休業を希望する介護スタッフが多いなか、利用者の反応はそれぞれです。
感染予防のため外出自粛の対応をとり、デイサービスの利用をキャンセルされる高齢者も増加傾向にあります。
一方で、「デイサービスは安心」「家にいても退屈」などの理由で、いままで通り通所され、運動やレクリエーション、おしゃべりを楽しむ利用者もおられます。
それぞれの思いで、キャンセルするか、いままで通りに通所するかを選ばれているようです。
デイサービスの通所を自粛される利用者のなかには、ご自宅で家族が手助けしているケースもあるでしょう。しかし、もしかしたら食事や入浴などの身の回りのことが自分でできる方もいらっしゃるかもしれません。
そうなってくると、そもそもデイで入浴介助を受ける必要があるのかという、ケアマネジメントの原点に立ち返る必要も出てきます。
介護を要する高齢者にとって本当に必要な介護サービスとは――。2025年問題に向けて不要な介護サービスの提供は削減するべきです。今回の新型コロナウイルスの問題は、ケアマネジメントのあり方を再考するきっかけにもなるでしょう。
経営者の視点で考えると、デイサービスを休業したとしてもテナント料やスタッフの給与、その他の固定費はかかります。他の業種と同様に、経営者としては感染対策を徹底したうえで、なるべく通常通り営業をしたいと考えるでしょう。施設によっては、デイを自粛する利用者に対して、「感染予防をしているから来てほしい」と電話をかけて通所を促しているという話も耳にします。
前回の記事でも紹介しましたが、都道府県知事からの休業要請がない場合でも、感染拡大予防の観点から、デイサービスの職員が利用者宅を訪問して、身の回りの世話やレクリエーション、リハビリなどを提供することが認められています。そのほか、デイの利用日に電話で安否確認を行うことについても介護報酬の算定が可能です。
これら特例の制度を活用し、皆が安心できる事業所運営を実施していくことが経営者に求められています。
3月、全国に先駆けて名古屋市が緑区と南区の126の通所施設等へ2週間の休業要請を行い、ほとんどの施設が休業や営業を縮小しました。そのことについて、名古屋市の河村市長は陽性者を押さえ込むことができたと効果を評価し、休業によって得られなかった介護報酬を全額保証するとしています。
もし名古屋市のように保証を担保してもらえれば、デイサービスも休業や規模の縮小を受け入れやすくなります。ですが、保険者や都道府県にとっては、恐らく多額の保証が休業要請を出す足かせになっているのでしょう。
東京都や大阪府などは休業要請する業種から障害者施設や高齢者施設を除外し、感染防止対策の協力要請にとどめています。しかし、利用者、介護職員、経営者それぞれに苦悩しています。
必要な人に必要なサービスが届くよう、またサービスに関わる人たちが安心して生活できるような対応が望まれます。
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