2月といえば節分です。豆まきをする一般家庭は減っていますが、デイサービスや介護施設での節分行事は非常に多いようです。
デイサービスなどでのレクリエーションは、時に幼稚だと批判されることもあります。しかし、古くからの風習を行う家庭が減ってきている現代では、季節の行事をすること自体に大きな意味があるのです。
今回は、デイサービスの節分レクリエーションについて、利用者のエピソードと共にご紹介します。
デイサービスの節分レクリエーションについて、主任ケアマネの寺岡さんが教えてくれるっポ。
今年は我が家でも豆まきしようかしら。
デイサービスなどの高齢者施設には、心身共にしっかりした人もいれば、認知症がある人、麻痺がある人、筋力が衰えている人など、さまざまな利用者がいらっしゃいます。
そのため、レクリエーションはなるべく誰もが一緒に行えるような工夫を凝らします。
デイサービスを利用するフキ子さん(仮名)は認知症が少しずつ進行していました。他の利用者との会話が上手くかみ合わないことが多々あり、レクリエーションの参加には消極的です。
ある日、デイサービスでは節分を控えた工作として鬼の面づくりをしていましたが、フキ子さんは気が進まない様子で手が止まっていました。
そこで、職員はデイの利用者に対して「節分といえば何を思い出しますか?」と問いかけをしてみました。
他の高齢者は豆まきをした思い出や節分祭に行ったエピソードを語っていましたが、そんななかフキ子さんがおもむろに「柊鰯(ひいらぎいわし)」とつぶやきました。
柊鰯とは、主に西日本で行われる風習で、葉のついた柊の小枝に焼いたいわしの頭を突き刺して玄関先に飾るものです。
現代では柊鰯を飾る家は少なくなっていますが、京都や奈良などではまだこの風習が残っているところもあります。
四国から京都にお嫁に来たフキ子さんは、節分の日に義母が準備した「柊に刺された鰯」を見てびっくりしたそうです。
しかも、その柊鰯を家の玄関に飾ると聞き、それまで見たことのない光景に衝撃を受けたとのこと。
「本当はすごく嫌だったけど、義母との関係が悪くなってはいけないと思い感謝の気持ちを伝えた」と、笑って話してくれました。
フキ子さんのこの話をきっかけに、デイサービスでは「柊鰯を知っている」「知らない」と大いに盛り上がりました。
普段あまり話をしない人でも昔の風習の話題であれば参加しやすく、みんなで一緒に盛り上がることができます。
それだけでなく、昔の思い出は回想法になるといったメリットもあるでしょう。高齢者の思い出を引き出すには、節分のような季節の行事が欠かせません。
節分は豆まきをして無病息災を願いますが、デイサービスでは豆ではなく豆に見立てたボールを鬼に向けて投げるなど、ゲーム的な要素を加えたレクリエーションがよく行われています。
軽いものを投げるだけでは運動をしている意識があまりないかもしれませんが、実は全身を使った運動ができています。高齢者の体に負担とならず、自然に楽しみながら大きく体を動かせるというメリットがあるでしょう。
節分のレクリエーションは、だいたいどの施設でも利用者が一丸となって鬼役の職員を追い払います。鬼役の職員の演技もあり、大いに盛り上がるイベントになっているようです。
ところで、豆まきをしたら無病息災を願って福豆を食べるのが風習ですが、高齢者の場合はどうでしょうか。節分で食べる豆の数は年の数とも年の数にひとつ加えるともいわれます。
ですが、そもそも高齢者の年齢の数だけ豆を食べることは難しいでしょう。しかしそれ以外の理由でも、高齢者は豆まきの福豆を食べないほうがよさそうです。
福豆は大豆を煎ったもので、非常に固く咀嚼がしにくいため消化が悪くなります。
また、小さく咀嚼しにくい福豆は空気の通り道である気管に入りやすく、誤嚥の原因となります。誤嚥は命にかかわる危険もあるので注意が必要でしょう。
福豆は、高齢者用には唾液で小さくなるボーロを代用すると安心です。
また、福豆をすりつぶしたきな粉は、炊いてやわらかくした豆やヨーグルトにかけるなど、さまざまな形態のおやつに対応できます。
そのほか、節分にちなんで鬼まんじゅうづくりのおやつレクはどうでしょうか。
鬼まんじゅうとは、小さな角切りのさつまいもを混ぜた生地を蒸して作った東海地方の郷土料理で、さつまいもの角が鬼の角や金棒に見立てられてこの名前がついたとされています。
角切りにしたさつまいもに砂糖や塩をまぶしてねかせ、小麦粉と混ぜて蒸し器で蒸すだけで素朴な味わいの鬼まんじゅうが簡単に作れます。
ホットケーキミックスで代用しても蒸しパンのような柔らかい鬼まんじゅうを作ることができるので、おやつレクにもぴったりです。
最近は小さい子供のいない家庭ではあまり見かけなくなった節分の光景ですが、高齢者の心のなかには深く思い出として残っているかもしれません。
ぜひ、高齢者の昔の思い出を聞いてみてください。
著者:寺岡 純子
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