高齢者が集まるデイサービスでは、人間関係でトラブルが発生するのは女性の方が圧倒的に多くなっています。
学生時代の仲間外れ、社会人の先輩後輩問題、ママ友トラブルなど、男性に比べて、女性の方が人間関係のトラブルに巻き込まれる確率が高いと感じるのは、私だけでしょうか。
デイサービスの元介護スタッフが、「何歳になっても女性が集まる場所には人間関係トラブルがつきものだ」と実感したエピソードを2つ紹介してくれるっポ。
んー。確かに女性が集まると、人間関係のトラブルも多くなるかもしれないわね……。
舞台は、1日の定員数を10名と少人数をウリにしている小規模のデイサービスです。利用者の平均年齢は75歳前後と若く、いつも活気にあふれたデイサービスでした。
1日の利用者10名のうち8~9名は女性なので、男性の存在感が薄く男性利用者にとっては通いづらいデイサービスといった印象もありました。
そんな女性だらけのデイサービスの中心となっていたのが、Yさんでした。Yさんは70歳になったばかりなので他の利用者と比べて頭の回転が良く、ゲームではいつもトップの成績。手先が器用で手芸や工作も抜群に上手な女性でした。
「さすがYさんよね~」と、周りの利用者も褒め称えます。気づくと、Yさんは女性利用者のボスと化していたのです。
入浴の順番も1番、トイレの順番も1番。見かねた介護職員が他の人を先に誘導しようとすると、「私はいいからYさんを先にしてあげて」と言われてしまいます。
また、もともと面倒見の良いYさんは「〇〇さんの席はあちらにした方がいいわよ」「〇〇さんをそろそろトイレに連れて行った方がいいんじゃない?」など、他の利用者の介護方法に対しても口を出すようになります。
ときには、「こんなゲームはくだらないから、やらないようにしましょう」と、他の利用者を巻き込んでレクリエーションをボイコットすることもありました。
さらに、気の強いYさんは自分の思い通りに物事が進まないと機嫌が悪くなり、1日中黙り込むこともしばしば。デイサービス内の空気も重くなるため、介護職員は困り果てていました。
Yさんの対応に頭を悩ませ、デイサービスでは何度もケース会議を行いますが、有効な打開策を見出せないまま月日が流れます。
そんなある日、新規の利用者Iさんが通所することになりました。
誰にでも丁寧に接して物腰が柔らかく、しかし凛とした強さを秘めたIさんは、すぐにデイサービスの女性陣の心をわしづかみにします。
コミュニケーション能力も高く、「カリスマ性がある人というのはこういう人のことをいうのだろう」と感じる程の人気ぶりでした。
もちろんIさん自身はボスになろうなんて思ってもいないので普通に過ごしていたのですが、おもしろくないのはYさんです。今まで自分を取り巻いていた人たちが一斉にIさんの方にいってしまったのですから。
結局、他の女性利用者たちはYさんの機嫌を損ねないように一緒にいただけの関係だったのでしょう。周りがYさんを恐れなくなったお陰で、デイサービスは本来あるべき姿を取り戻したのでした。
誰にでも隔たりなく接するIさんは、Yさんとも仲良くしていました。YさんもそんなIさんに影響されたのか、以前のような横柄な態度も見られなくなり、誰もが楽しく過ごせるデイサービスに戻りました。
あのときIさんが通所して来なかったら……このデイサービスは今頃どうなっていたのでしょう。
いい結果になってよかったわ!
デイサービスには、認知症の利用者が通所することもあります。次に紹介するのは、見た目からは認知症だとまったくわからないSさんが起こしたトラブルです。
言葉遣いも丁寧で上品な奥様といった雰囲気のSさんは、認知症を患っています。ほんの数時間会話をしたくらいでは認知症と気づかないほど、お話も上手な女性でした。
息子夫婦と同居しており、日によって認知症の症状は変わるとのことでした。
その証拠に、認知症の「に」の字もないほどしっかりしていて調子が良い日もあれば、デイサービス自体を覚えていない日もあります。
介護職員がお迎えに行くと「あなた誰?どこに行くの?」という日があったり、そうかと思えば他の利用者の名前までしっかり覚えている日があったりするわけです。
実際デイサービスでも、Sさんが認知症だと気づいていた利用者は数名だったと記憶しています。そんなSさん、社交性があり他の利用者ともよく話をするので、ときに困った展開になることもあったのです。
とある木曜日、Sさんと親しいデイサービスの利用者Mさんが家族と共にデイサービスに訪れました。Mさんは月曜日と水曜日に通所しているため、通常なら木曜日のデイサービスには来ません。
介護職員は驚いて、「どうしたのですか?」と尋ねました。すると、「Sさんが今日で最後だって聞いたから、挨拶したくて来たのよ」と言うではありませんか。
詳しい話を聞くと、Sさんは息子の家に居候していて来週には自分の家に帰ることになっていると話していたと言うのです。もちろんそんな話は寝耳に水ですし、そもそもSさんは息子夫婦と同居しているのであって居候ではありません。帰る家など他にないはずです。
Mさんは人見知りなうえ人付き合いが苦手なので、Sさんがいつも話し掛けてくれるお陰でデイサービスに通いやすくなったそう。MさんだけでなくMさんの家族もSさんに感謝しているというお話でした。
介護職員は心苦しさを感じながらも、Sさんがデイサービスをやめる話はないことを伝えました。Sさんが認知症を患っていることは伏せましたが、Mさんの家族は状況を察してくれたようでした。
Mさんは「どうしてそんな嘘をついたのかしら」と怒った様子で介護職員の話を聞いていましたが、徐々に落ち着きを取り戻し「Sさんはデイサービスをやめないのね。来週も会えるならよかったわ」と納得して帰宅しました。
ここまでなら笑い話として「めでたし、めでたし」で終わる話なのですが、この話には後日談があります。翌週、普段通りにデイサービスに来たMさん。Sさんの顔を見たらどうしても文句を言いたくなってしまったのでしょう。
「Sさんの冗談をまんまと信じてしまったわよ」と声を掛けたようです。
すると、そんな話をした記憶がない、つまり身に覚えのないMさんは「何の話?」と不穏な空気に。介護職員が気づいたときには、「嘘つき!」「どっちが嘘つきなのよ」と大喧嘩になっていました。
介護職員が間に入りそれぞれに話をしましたが、Mさんの方はわだかまりが残ってしまったのか、以前のようにSさんと過ごすことはなくなってしまいました。
Sさんは、Mさんに自分がデイサービスを辞めると話したことも、喧嘩をしたことも忘れてしまったようで変わりなく過ごしていましたが、なんとも後味の悪いトラブルでした。
このように認知症の利用者への対応は、介護職員も判断に苦しむことが多いです。今回のケースは、MさんがSさんの話を信じてお別れに来た段階で、Sさんの病気のことをきちんと話しておけば喧嘩を回避できたかもしれません。
人を相手とする介護はマニュアルどおりにはいきません。SさんとMさんに対し申し訳なさを感じると同時に、一人ひとりの利用者の症状や性格に合わせた対応が必要なのだと考えさせられた事例です。
この事例はハッピーエンドとはいかなかったようね……。
認知症のせいであって誰も悪くないっポ……。みんなが認知症の知識を持つことも必要なのかもしれないっポ。
こんな話をすると、「デイサービスって面倒くさそう」と思われてしまうかもしれません。しかし、「こんな年になって友人ができるなんて思ってもみなかった」と利用者同士で良い関係を築いている人もたくさんいます。
嫁の愚痴を言ったり昔話に花を咲かせたり、デイサービスが生きがいになっている人も多いのです。
ただし、困ったことがあったら早めに介護職員に相談し、トラブルを回避することをお忘れなく。
著者:柴田 まみ
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