新型コロナウイルスの新規感染者数は全国的に減少の傾向にあります。5月14日には39県の緊急事態宣言が解除され、5月21日には大阪、京都、兵庫の関西3府県も解除されました。
全国に緊急事態宣言が出ている間、介護現場はクラスターの発生や新型コロナウイルスが原因となる死亡者数の増加、事業所の休業など、さまざまな影響を受けました。では、緊急事態宣言の解除を受けて、介護の現場にはどのような変化が見られているのでしょうか。
自主休業を含め、緊急事態宣言中に営業を自粛または縮小していた通所系サービスの事業所は、少しずつ通常の営業に戻しているところが多いようです。
新型コロナの影響で経営に打撃を受けている事業者は多く、経営者の立場に立てば、早期に経営状況を立て直さなければ今後の運営が危ぶまれます。
自粛で会話が減った高齢者にとっては、ようやくデイサービスが再開したと安堵され、他の利用者や職員との会話を楽しむ方もいらっしゃいます。しかし利用者の中には、「もう少し様子を見てから通所したい」とおっしゃる方も少なくありません。自粛生活が続いたことから新規でのサービス利用を検討する人が少ないのも現状です。
そのため、「介護事業所の経営改善の見通しがつかない」という経営者がほとんどのようです。
訪問介護の現場も楽観視できないようです。現状に不安を強く持つヘルパーも多く、利用者に発熱がなければホッとするとの声も聞かれます。また、マスクや防護服を着用しての訪問介護サービスは、疲労感が増すだけでなく、これからの時期は熱中症のリスクが上がります。
訪問介護はただでさえ人員不足の慢性化が深刻で、緊急事態宣言が解除されても簡単に好転できる状態ではありません。介護人材不足の解消や給与の問題などに関しても、早急な改善が望まれます。
5月15日、厚生労働省は高齢者施設等での感染経路を遮断するため、やむを得ない場合以外はオンライン面会が望ましいとして、その際の注意点や実際の事例について情報を提供しています。
介護施設での面会制限は緊急事態宣言が出される前より行われていたことから、まだしばらくの間は継続されるものと思われます。
現在のところ、その他のガイドラインは出ていないようです。厚労省には今後、介護現場全体の実態をしっかりと把握していただき、第2波、第3波に向けたガイドラインの作成を急いでいただきたいところです。
いまは介護崩壊をぎりぎりのところで食い止めている状態です。介護現場への衛生用品の納品、人員の確保、職員への手当の支給など、物と人の確保に向けた早急な対応が期待されます。
2020年2月時点で、介護保険の施設サービスを利用している人は全国で約96万人(有料老人ホーム等含まず)、在宅サービスを利用している受給者は約389万人です。
その中で新型コロナの感染者数は正確に集計がされていないものの、5月8日時点での新型コロナ感染症の感染者数は入所施設で少なくとも474人、死者が70人。一方、デイサービスなどの通所系サービス(ショートステイを含む)を利用する受給者数は約218万人で、そのうち感染者数は164人、死者は9人となっています(*東京新聞による)。
新型コロナウイルスに感染したり、お亡くなりになった方がおられるのは大変不幸なことですが、海外での介護崩壊のケースに比べると、数の上ではかなり抑えられたと言えるのではないでしょうか。
介護の現場では、マスクや消毒薬などが不足している事業所も多く、感染予防の条件が良いとは決して言えません。
職員自身も感染のリスクがある中、多くの介護職員は感染予防に対する意識を高く持ち、感染リスクの低減のために、手洗いやうがい、介護現場以外での3密を避けた行動の徹底などを行ってきました。
物品不足が続く中で感染者数や死亡者数をある程度抑えられたのは、介護従事者がプロ意識を高く持ち、自らの行動を律した結果ともいえるでしょう。
介護の現場は新型コロナウイルスだけではなく、インフルエンザやノロウイルス、疥癬(かいせん)など、常に感染症の蔓延リスクを抱えています。そのため、感染予防に関する研修を実施するなど、日頃から感染症に備えていた介護事業者も多かったのだと思います。
その甲斐あって、行うべき行動を理解できている職員も多く、感染リスクを最小限に抑えられたのかもしれません。
定期的な研修や勉強会などで常に感染症に対する職員の意識を高めておくことが、今後も利用者と職員の安全と命を守るといえるでしょう。
新型コロナウイルスの感染症の流行は、まだまだ決して楽観視できるような状況ではありません。ですが、感染予防に必要な物品が十分に確保できれば、プロとして高い意識を持って業務を遂行する介護職員たちに支えられながら介護現場は上手にコロナと共存し、終息を迎える日が来るだろうと期待しています。
参考
<新型コロナ>介護施設全死者の14% 衛生品不足、集団感染(東京新聞)
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