車椅子で外に出てみると、意外と危険が多いことに気づきます。段差が多かったり、道が必要以上に傾いていたり、街灯が少なくて夜は前が見にくかったり……。
車椅子に乗っているからこそ気づくことができるバリアフリーの問題点、改善点も見えてきます。
一方で、まわりの人のやさしさにふれることも少なくありません。道端で困っている時に道行く人からさりげなく手を差しのべてもらえると本当にホッとしますし、「これからも安心して外に出よう」という気分になります。
ここでは、電動車椅子ユーザーで障害当事者の視点から、「車椅子で外に出て困ること」についてバリアフリーの現状をまじえてお伝えしていきます。
私には脳性まひという先天性の身体障害があり、中学1年生の頃から電動車椅子に乗って生活しています。現在は親元を離れ、神奈川県内の障害者向けシェアハウスに入居しており、障害者年金とフリーライターとしての収入で生計を立てています。
シェアハウスで暮らす私にとって、毎日の楽しみはひとりで外に出かけることです。特によく出かけるのは、コンビニや図書館、映画館。
ひとりで外に出ると、いろいろなことに気づきます。まず、道がけっこう危ないこと。
道路は思っている以上にでこぼこしており、車椅子で進むには危険も多いのです。特に怖いのが、道路の傾斜。
ちょっとした段差や凹凸であれば車椅子のパワーで何とか乗り越えられますが、道路そのものが傾斜していると車椅子が大きく傾いてしまい、そのまま倒れてしまうこともあります。重心が高くて軽い車椅子ほどわずかな傾斜でも倒れやすくなるので要注意です。
倒れることはなくても、傾斜によってタイヤが流され操作がきかなくなってしまうことがあり、思わずヒヤリとします。比較的パワーのある電動車椅子でも危ない場面があるのですから、手動式の車椅子だとさらに苦労も増えるでしょう。
ひとりで出かけるようになってから、新しいエリアに出かける時には事前にネットで周辺の地図を調べ、できるかぎり安全なルートを確認したうえで計画を立てるようになりました。
時々ヒヤリとしながら、それでもひとりで出かける時間を大切にしているのは、人のやさしさにふれることも少なくないからです。
道端でものを落としたり、段差に引っかかったり、目的地がわからなくなったり……絶体絶命のピンチにこそ、意外と誰かが手を差しのべてくれるもので、助けられるたびに温かい気持ちになります。
よく行くコンビニやスーパーでは、手の空いている店員さんが付き添ってくれて、買いたいものをかわりに探し、会計まで手伝ってくれます。初めて行くお店でもお願いをすれば買い物を手伝ってもらえるので、とても助かっています。
地域にかかわらず、こうした「マンパワーを活かした配慮」がさらに浸透すれば、障害が重度であってもひとりで安心して好きな場所に出かけられる環境が出来上がっていくでしょう。
車椅子である程度遠くに出かけるのなら、電車やバスなどを利用したほうが楽になります。「交通バリアフリー法」の施行以来、日本でも公共交通機関のバリアフリー化が進み、車椅子でも安心して乗車できるようになりました。
電車でひと駅移動するだけでも事前予約が必要だった時代を知っている世代の方から見れば、信じられない話かもしれません。
都市部を中心に法整備が進み、川崎市営バスではノンステップバスを100%導入しているなど、車椅子ユーザーだけでなく、すべての人たちが快適に出かけられる環境がととのいつつあります。
段差解消だけではありません。車椅子スペースにある座席の裏側には専用の停車ボタンがあり、車椅子ユーザーがそのボタンを押すと次の停留所で運転手さんが降車の介助をしてくれるようになっています。
言語障害があり、どこの停留所で降りるのかをスピーディに伝えられない私にとっては非常に助かるシステムです。
停車ボタンは座席を跳ね上げなければ見ることができないため、気づきにくいかもしれませんが、バスに乗った際にはさりげなくチェックしてみてください。
電車も格段に乗りやすくなりました。駅と駅の連絡システムが進歩したため、かつてのように連絡待ちで電車を何本も見送ったり、降りる駅のホームでスロープを置く駅員さんが待っていなかったり……というトラブルは少なくなっています。
ただ、これで充分とは言えません。
国土交通省が発表した「平成30年度末・鉄軌道駅における駅の段差解消への対応状況について」によると、基準に適合した設備で段差が解消されている駅は、大手民間鉄道15社(92.5%)、地下鉄10社(94.9%)となっているのに対し、JR6社は合計で89.4%にとどまっています。
言い換えれば、都市部の主要駅でもまだバリアフリー化が充分に進んでいない駅が一定数ある、ということであり、「車椅子で安心してどこへでも出かけられる環境」までにはあと一歩、といった状況が読み取れます。
さらに、地方の中小規模の鉄道、および路面電車ではエレベーターなど段差解消の設備設置率が82.9%にまで下がっており、鉄道会社全体では90.4%となっています。
なお、上記は「1日の利用者数が3000人を超える主要駅」のみのデータであり、利用客が少ない地方都市の小さい駅などでは現在もなおバリアフリー化が進んでおらず、重い車椅子を階段で運ばなければ電車に乗れない、という現実があります。
私自身も、電車に乗って遠方のレジャー施設に出かけようと計画を立てていたのに、乗り継ぎの駅にエレベーターがなかったために急きょルートを変更せざるを得なかった、という経験があります。
バスの車椅子乗車拒否も残念ながら発生していますし、日本の交通バリアフリーはまだまだ発展途上と言えるのではないでしょうか。
交通バリアフリー法の施行以降、国内のバリアフリーは格段に進歩してきましたが、一方で課題もあります。
車椅子のままでバスに乗れるバスが増えてきましたが、ベルトの固定に時間がかかる場合があり、不慣れな運転手さんだと10分以上かかることもあります。
もちろん、その間はずっと他のお客さんを待たせることになるので、どうしても申し訳なくなり、「ベルトの固定はいいです」と言ってしまうことも少なくありません。
バスに乗るためのスロープをなかなか出せずに戸惑うケースもありますので、バス会社のほうで定期的に講習会を開くなどの対策が必要です。
バスがもう少し広くなり、座席をその都度跳ね上げずにすむならさらに乗車時間も短くなり、車椅子でもスムーズに乗れるようになるでしょう。
マンパワーも大切です。電車でもバスでも、「マニュアルだから介助する」のではなく、誰もが自然に手を差しのべられる空気感が浸透すれば出かけるほうも申し訳なさを感じず、心地よく交通機関を利用しやすくなるでしょう。
国がハード面を整備し、マンパワーの拡充でそれを支える。ハードとソフトが両輪になってこそ、本当の意味で住みやすい街づくりが実現するのです。
<参考>
平成30年度末 鉄軌道駅における駅の段差解消への対応状況について(国土交通省)
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