【解説】処遇改善加算の要件、来年度から厳格化へ 介護現場の職場環境向上の取り組みが大幅変更に

介護報酬の処遇改善加算の要件が来年度から大きく変わる。急に取得できなくなってしまうことのないよう、事業所・施設は早め早めの対策が必要だ。【Joint編集部】

今年度の報酬改定で拡充・一本化された処遇改善加算だが、現在は移行に向けた準備期間にある。本格運用の開始は来年4月で、そこから要件が厳格化される。準備期間は残り半年を切った。

大幅に変更されるのは「職場環境等要件」。これは名前の通り、事業所・施設の職場環境を良くする取り組みを事業者に求めるものだ。介護職員の処遇改善が、単に賃上げだけに留まることのないようにする狙いがある。

厚生労働省は「職場環境等要件」の具体的な取り組みとして、6区分24項目を規定。事業者にこれらを実践するよう従来から求めてきた。一本化前の処遇改善加算ならどれか1つ、特定処遇改善加算なら区分ごとにそれぞれ1つ以上行う決まりとしていた。

今回、処遇改善加算の一本化に合わせて6区分28項目に変更。生産性向上の取り組みの幅を広げ、以下のように改めて設定した。

■「職場環境等要件」の具体的な取り組み:6区分28項目

区分1|入職促進に向けた取り組み

① 法人の経営理念やケア方針、人材育成方針、その実現に向けた施策・仕組みなどの明確化

② 事業者の共同による採用、人事ローテーション、研修の制度の構築

③ 他産業からの転職者、主婦層、中高年など、経験者・有資格者らにこだわらない幅広い採用の仕組みの構築

④ 職業体験の受け入れや地域行事への参加など職業魅力度向上の取り組み

区分2|資質の向上やキャリアアップに向けた支援

⑤ 働きながら介護福祉士の資格を目指す研修、喀痰吸引の研修、認知症ケアの研修、サービス提供責任者の研修、マネジメントの研修などの受講支援

⑥ 研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動

⑦ エルダー・メンター制度などの導入

⑧ 上位者との面談など、キャリアアップに関する定期的な相談機会の確保

区分3|両立支援・多様な働き方の推進

⑨ 子育てや家族の介護などと仕事の両立を目指す休業制度の充実、事業所内託児施設の整備

⑩ 職員の事情に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した正規職員への転換制度などの整備

⑪ 有給休暇が取得しやすい環境の整備

⑫ 業務や福利厚生、メンタルヘルスに関する窓口の設置など相談体制の充実

区分4|腰痛を含む心身の健康管理

⑬ 身体の負担軽減に向けた介護技術修得の支援、介護ロボットやリフトといった介護機器の導入、研修などによる腰痛対策の実施

⑭ 短時間労働者らも受診できる健康診断・ストレスチェック、従業員の休憩室の設置など健康管理対策の実施

⑮ 雇用管理改善のための管理者に対する研修などの実施

⑯ 事故・トラブルの対応マニュアルの作成など体制整備

区分5|生産性向上の取り組み

⑰ 国の「生産性向上ガイドライン」に基づき、業務改善の体制構築(委員会やプロジェクトチームの立ち上げ、外部の研修会の活用など)を行っている

⑱ 現場の課題の見える化(課題の抽出、課題の構造化、業務時間調査の実施など)を行っている

⑲ 業務管理の手法の5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字)などを実践している

⑳ 業務手順書の作成、記録・報告様式の工夫などによる情報共有や作業負担の軽減を行っている

㉑ 業務を効率化する介護ソフト、タブレット、スマートフォンなどの導入

㉒ 見守り機器やインカム、チャットツールといった介護ロボット、ICT機器などの導入

㉓ 業務内容の明確化と役割分担を行い、いわゆる介護助手の活用なども含め、介護職員がケアに集中できる環境を整備している

㉔ 各種委員会の共同設置、各種指針・計画の共同策定、物品の共同購入といった事務処理部門の集約、共同で行うICTインフラの整備、人事管理・福利厚生システムの共通化など、協働化を通じた職場環境の改善

※ 1法人で1事業所・施設のみを運営するような小規模な事業者は、㉔を実施していれば生産性向上の取り組みの要件を満たせるという特例もある。

区分6|やりがい・働きがいの醸成

㉕ ミーティングなど職場内コミュニケーションの円滑化により、個々の介護職員の気づきを踏まえた勤務環境、ケア内容の改善

㉖ 地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上に資する地域の児童、生徒、住民との交流の実施

㉗ 利用者本位のケア方針など、介護保険や法人の理念などを定期的に学ぶ機会の提供

㉘ ケアの好事例や利用者・家族の謝意などの情報を共有する機会の提供

◆ 生産性向上の取り組みは3つ以上

来年度からは厳格化により、この「職場環境等要件」を満たすために事業者が実施すべき取り組みが増える。人手不足の深刻化などを勘案し、生産性向上の取り組みにウエイトが置かれている点が大きなポイントだ。

下位の処遇改善加算ⅢとⅣは、区分ごとにそれぞれ1つ以上、生産性向上の取り組みは2つ以上行うルールとされた。

上位区分はハードルがもう一段上がる。処遇改善加算Ⅰ、Ⅱを取得するためには、区分ごとにそれぞれ2つ以上、生産性向上の取り組みは3つ以上行う必要がある。更に、生産性向上の取り組みの⑰、⑱はどちらかが必須とされた。情報公表システムなどを活用し、項目ごとの具体的な取り組み内容を公表することも求められる。

区分5|生産性向上の取り組み(抜粋)

※ 上位区分はこの2つのどちらかが必須

⑰ 国の「生産性向上ガイドライン」に基づき、業務改善の体制構築(委員会やプロジェクトチームの立ち上げ、外部の研修会の活用など)を行っている

⑱ 現場の課題の見える化(課題の抽出、課題の構造化、業務時間調査の実施など)を行っている

こうした厳格化は来年度から。処遇改善加算の一本化の本格運用に伴い、変更される要件は他にもある。厚労省はリニューアルした公式サイトなどで、今回の見直しについて資料や動画で分かりやすく解説している。現場の関係者は今のうちから確認し、前もって準備を進めておく必要がありそうだ。

提供元:介護のニュースサイトJoint

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