社会福祉法人正勇会は、福岡県北九州市で地域のニーズに合わせた事業を展開してきました。少子高齢化や介護人材の不足が懸念されている現在では、業務のDX化にも力を入れています。
正勇会が取り組む業務改善の中で、特に効果を発揮した見守りシステム『ミリ波センサー生体情報検出システム』について、阿部勇会長、阿部裕子理事長、『ミリ波センサー生体情報検出システム』の販売会社である株式会社ユーウェブの営業部部長 有田晋さん、マーケティング事業部部長 林田淳さん、営業部 満岡謙志さんにお話しを伺いました。
<社会福祉法人正勇会 阿部勇会長>
――正勇会では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用し、業務効率化を図っているそうですね。保育園や介護の居宅サービスも展開されていますが、特にサービス付き高齢者向け住宅や特別養護老人ホームでの取り組みについて教えていただけますか?
正勇会 阿部会長:日本では少子高齢化が進み、2040年には約57万人の介護職員が不足すると言われています。最近では外国人の介護人材も増えてきましたが、それでも57万人分の不足を補うのは簡単ではありません。
こうした現状を踏まえ、当法人ではDXを活用し、より質の高い介護ケアを提供しながら、職員の負担を軽減する取り組みを進めています。老人ホームなどで「業務の効率化」と言うと、入居者様への配慮が欠けるのではと心配される方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、適切な技術を導入することで、入居者様に行き届いた決め細やかなケアを提供しながら、職員も安心して働ける環境を整えることができます。当法人ではシフト作成のAI化など、さまざまな取り組みを行っていますが、その中でも特に効果を発揮しているのが、ミリ波センサーを搭載した見守りシステム『ミリ波センサー生体情報検出システム』です。
<株式会社ユーウェブ 営業部 満岡謙志さん>
――「ミリ波センサー」を搭載した見守りシステムとは、どのようなものなのでしょうか。
株式会社ユーウェブ 満岡さん:『ミリ波センサー生体情報検出システム』は医療機器メーカーのフィンガルリンクが開発したもので、入居者様の体温、呼吸、心拍、起き上がり、離床、就床、室温、湿度のほか、排尿・排泄・嘔吐の検知が可能です。
ミリ波センサーには水と鉄以外を透過する特性があり、安全性の高い技術として車の自動運転などにも活用されています。
人の体の約60%は水分であるため、センサーを通じて人の位置を把握し、その位置情報をもとに動きや排尿・排泄・嘔吐などの状態を正確に検知できます。汗には反応しないなど、不要な誤検知を防ぐ工夫もされています。
入居者様の起き上がりや離床もすぐに検知できるほか、呼吸・心拍は6.4秒ごとに計測が可能です。サーモセンサーにより体温を測定し、室温や湿度も環境センサーで把握することができます。
センサーで取得した情報はリアルタイムでパソコンやスマホに送られ、すべての入居者様の状態をモニターで確認することが可能です。異変があれば、アラートがモニターやインカムへ通知されるため、職員は異変のあった入居者様のもとへすぐに駆け付けることができます。
センサーは入居者様の居室の天井に設置され、非接触でカメラも搭載していません。これによりプライバシーが守られ、体温や呼吸などに異変があれば職員がすぐに対応できるため、入居者様にはより安心した毎日をお過ごしいただけます。
<ミリ波センサー生体情報検出システム 設置例(天井)>
<社会福祉法人正勇会 阿部裕子理事長>
――この見守りシステムは、入居者様のさまざまな情報が把握でき、安心感がありますね。職員側にもメリットがたくさんありそうですが、具体的に教えていただけますか。
正勇会 阿部理事長:まず、夜間の安否確認にかかる職員の負担が大幅に軽減されました。以前、当法人の特別養護老人ホームでは、ひとりの職員が20室を1時間ごとに巡視していました。1部屋3分で20室を巡視して60分かかり、これを一晩に10回行うため、夜間の巡視だけで600分(10時間)程度の時間をかけていました。
音に敏感な入居者様は、巡視の際に目覚めて不穏になることもありましたが、見守りシステム導入後は、異変があった際にすぐ対応できるようになり、巡視時間を大幅に削減できるようになりました。
それにより、入居者様のストレスも軽減され、現在の夜勤体制では、職員にとってもかなりの時間的な余裕が生まれています。空いた時間は、手すりやテーブルの消毒、共用部分の清掃などに充てています。
また職員からは、「身体的な負担が軽減されたのはもちろん、入居者様の呼吸や体温、起き上がりの状態を常に把握できるため、精神的な負担も軽くなった」という声が上がっています。
6.4秒おきのバイタル確認は人ではできないため、見守りシステムの導入によって、より正確で迅速な対応が可能になりました。今では、なくてはならない存在となっています。
当法人のサービス付き高齢者向け住宅には特別養護老人ホームと同様に見守りシステムを導入しており、サ高住としては国内でも珍しい取り組みです。
サ高住は特別養護老人ホームとは違って、夜間の安否確認が義務付けられていません。そのため、夜間の見守り体制は住宅ごとに異なり、入居者様やご家族が住宅を選ぶ際の重要な指標の一つとなります。
サ高住においても、より安心できる環境を提供することで、入居者様とご家族の不安を軽減できると考えています。
――『ミリ波センサー生体情報検出システム』では、おむつ交換の適切なタイミングもわかるそうですね。
正勇会 阿部理事長:ミリ波センサーは水分を検知するので、排尿や排泄があった際にも把握できます。排尿や排泄の判別はもちろん、おむつ内のおおよその尿量もモニターで把握することができます。
尿量は4段階で表示され、「交換にはまだ早い」「そろそろ交換が必要」という情報が一目でわかるので、適切なタイミングで交換できるようになりました。
特養では、これまでおむつ交換を2時間おきに行っていましたが、そのたびに確認が必要で、職員と入居者様双方の負担となっていました。見守りシステムの導入により、尿量を正確に把握できるようになったため、適切なタイミングでおむつ交換が可能になりました。
また、おむつ交換は入居者様の尊厳に関わるケアのひとつです。適切な交換のタイミングがわからなければ、職員が何度もおむつの中を確認せざるを得ず、入居者様の不快感につながることもあります。
見守りシステムの導入により、職員が入居者様に接触することなく、排尿・排泄の状況や尿量を把握できるようになりました。他社が販売しているおむつセンサーには、マットの下に設置する匂いセンサーや、おむつ内に入れる接触型センサーなどさまざまな方式がありますが、本システムは非接触型で『ミリ波センサー生体情報検出システム』ならではの大きな特長です。
――『ミリ波センサー生体情報検出システム』は入居者様の起き上がりや離床も把握できますが、これにはどのようなメリットがありますか?
正勇会 阿部理事長:高齢になると骨がもろくなり、特に女性は骨粗しょう症になりやすいと言われています。ベッドから立ち上がる際にバランスを崩して転倒すると、骨折につながる危険性があるため、転倒の防止が非常に重要です。
ミリ波センサーは、株式会社ユーウェブと共同で検証した結果、入居者様が起き上がろうとした際、わずか1.89秒で反応することが確認されました。起き上がりを検知すると、職員のインカムにアラートが送信されるため、立ち上がる前に駆けつけることができ、事故を未然に防ぐことが可能です。また、ベッドを離れた際にもアラートが鳴るため、迅速な対応ができます。
<株式会社ユーウェブ マーケティング事業部 林田淳部長、営業部 有田晋部長>
――『ミリ波センサー生体情報検出システム』のデータは介護ソフトと連携できるそうですね。
株式会社ユーウェブ 林田さん:心拍、呼吸、体温、睡眠情報、排泄、起き上がりなどのデータは、センサーが検知すると自動で介護ソフトに記録されます。現在、「カナミック」や「ほのぼの」などの介護ソフトと連携が可能です。
正勇会 阿部理事長:以前は、看護職員がバイタルを測定し、メモに記録した後でパソコンに入力するという手順を踏んでいました。100人の入居者様の計測と記録作業にかかる時間は2名の看護師で午前と午後に2時間ずつ、1日合計で約8時間かかっていました。しかし、見守りシステム導入後は記録が自動化され、これまで測定と記録に費やしていた時間を入居者様のケアやコミュニケーションに充てられるようになりました。
また、介護職員にとっても、データ入力の負担が軽減されたことで、本来の介護業務に専念できるようになった点は大きなメリットです。
<ミリ波センサー生体情報検出システム スマホ画面イメージ(※実際とは異なります)>
――現在、『ミリ波センサー生体情報検出システム』は施設向けのみの提供ですが、今後は一般の方も購入できるようになるそうですね。
株式会社ユーウェブ 有田さん:在宅の方向けの『ミリ波センサー生体情報検出システム』は、2025年5月から販売を開始する予定です。ヨドバシカメラ、ビックカメラのネットショップや一部店舗、そごう横浜店などのデパートで取り扱っていただきます。
また、要介護1~5の認定を受けている方であれば、1~3割の負担で介護保険によるレンタル(福祉用具貸与)も可能になります。お住いの地域によっては、自治体が提供するサービスとしても利用できるようになる予定です。
一人暮らしのご高齢の方は、体調の急変、夏場の熱中症などの心配がありますが、この見守りシステムを設置することで、危険を察知するとアプリで連携しているご家族などにアラートが届きます。
例えば、高熱の発生や呼吸の停止など、迅速な対応が求められる状況では、遠方にいるご家族がすぐに救急車を手配することも可能です。見守りが必要な方にとって、大きな安心につながる見守りシステムになると思います。
――正勇会では見守りシステムの他にもさまざまな方法で業務改善をしているとのことですが、他にはどのような取り組みをされていますか?
正勇会 阿部理事長:「介護現場の仕事は忙しい」とよく言われますが、その「忙しさ」の原因を突き詰めていくと、必ず改善できるポイントが見つかります。当法人では、業務のどこに負担がかかっているのかを一つひとつ分析し、改善を進めています。
例えば、シフト作成をAIで行うようにしました。以前は現場での調整を重ねながら2週間かけてシフト作成していたものが、今ではわずか20秒で完了するようになりました。
また、入居者様の体位交換を自動で行えるベッドを導入したり、施設内の掃除にはお掃除ロボットを活用したりしています。お掃除ロボットは、入居者様が居室を空けるときにボタンを押すだけで、部屋の隅々まで水拭きまでしてくれるため、職員の負担を軽減できます。
さらに、職員間の連携を強化するために、これまで使用していた内線電話をインカムに切り替えました。これにより、リアルタイムでの情報共有が可能となり、タイムラグによる対応の遅れを防ぐことができます。
今年からは、多言語対応機能も追加されるため、外国人技能実習生の母国語であるベトナム語やミャンマー語への翻訳がリアルタイムで行え、緊急時のリスクにも備えられるようになります。
このように、業務改善は多岐にわたりますが、入居者様の安心・安全を最優先にしながら、職員が無理なく働ける環境を整えることを重視しています。特に、外国人技能実習生がスムーズに業務に慣れ、戦力として活躍できる仕組み作りにも力を入れています。
<特別養護老人ホーム ソレイユ浅野>
――これまで見守りシステムや業務改善についてお伺いしてきましたが、正勇会についても教えていただけますか。
正勇会 阿部理事長:当法人では、特別養護老人ホームを6事業所、サービス付き高齢者向け住宅を3事業所、さらにグループホーム、デイサービス、ショートステイ、ケアプランセンター、認可保育園を運営しています。
当法人のサ高住では、看護師が24時間365日常駐しており、持病や難病のある方も安心してお過ごしいただけます。一方、特養では夜間の看護師配置が義務付けられておらず、夜間の医療対応が難しい場合があります。そのため、夜間の医療処置が必要になり、特養からサ高住へ移るケースもあります。当法人では入居者様の健康状態に応じた最適な環境をご提供できるよう努めています。
正勇会 阿部会長:当法人はハード面にも強いこだわりがあります。例えば床組みです。病院や他施設ではほとんどが硬いコンクリートにシートを貼っただけの床が多いですが、当施設ではクッション性を持たせるため、住宅や高級老人ホームと同じように下地を挟んでいます。これにより、入居者様や職員への身体的負担を軽減し、万が一転んでもケガをしにくい仕様になっています。
また、居室はカーテンではなく内障子を使用しています。今の高齢者が若かった頃の家には、たいてい障子がありました。施設に内障子を使用することで、カーテンに比べて認知症の方に安心感を与え、認知症の方がよく感じる「帰宅願望」を和らげ、より落ち着いて過ごしていただけるようになりました。
<特別養護老人ホーム ソレイユ浅野 居室>
――正勇会は2011年に小倉北区地域貢献企業として表彰されていますね。
正勇会 阿部会長:地域に貢献したことが評価され、いただきました。ゴミ拾いや老人会への参加、オレオレ詐欺や火災から命を守る啓発活動、盆踊りや餅つきなど、市民センターと一緒に行った活動が評価されたようです。これからも地域に根ざした存在であり続けたいと思っています。
――改めてですが、正勇会では他で聞かないような取り組みをされていて驚きました。
正勇会 阿部理事長:福祉事業では昔から「ご利用者様第一」が基本とされてきましたが、職員のケアも同じくらい重要だと感じています。業務改善の一環として、見守りシステム『ミリ波センサー生体情報検出システム』の導入を進めているのもその一例です。
見守りシステムの導入により、看護師はバイタル計測などの業務から解放され、ルーティンワークがなくなりました。その結果、本来の看護業務に集中できるようになり、より多くの時間を入居者様のケアに充てられるようになりました。当法人の施設では、検査入院や持病による定期入院を除き、ほとんどの入居者様が入院することがなくなりました。
業務の改善が進むと、職員の負担も軽減されます。そして、職員の働きやすさを向上させ、結果的に入居者様にも良い影響を与えることができます。今後も、入居者様と職員、両方のためになる改革を進め、現代のニーズに応える理想的な施設を目指していきたいと思います。そして、高齢化社会を支える一助となるよう、引き続き改善を重ねていきたいと考えています。
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