高齢者が事故にあったり怪我をしたりする場所って外出先が多いと思ってない?
実は自宅での「ヒヤリハット」が意外とたくさんあるっポ。
自宅も危ないのかい!? いままで意識したことなかったよ……。
どんな場所が危険なんだろう?
じゃあ詳しく教えるから、高齢者が自宅で「ヒヤリハット」しやすい場所や対策をしっかり確認するっポ!
自宅って高齢者にとっていちばん安全な場所じゃないのかなあ。
そうとも言い切れないみたい……。高齢者のヒヤリハットに関する調査結果を見てみるっポ。
日常生活の拠点でもある自宅は、住む人にとって快適、安全な環境が整えられているはずです。しかし、特に高齢者を中心に自宅であってもヒヤリハットを経験する人が増えています。
ちなみに「ヒヤリハット」とは、実際に事故にまでいたらなかったものの、大ケガなどにつながりかねないミスで思わず冷や汗をかいたという体験のことです。
具体的には、部屋のつなぎ部分の段差でつまずいてしまったり、階段で足を踏み外したりといった、ごく日常で起こりうる体験です。
では、実際にどれくらいの人が「自宅」で「ヒヤリハット」を経験しているのでしょうか。
今回、参考にするのは2017年に東京都が行った「ヒヤリハット調査」というインターネット・アンケート調査です。
回答数は3,000人で、東京都在住の70歳以上の世帯に対して、週に1回以上家事支援や見守りなどを行っている20代から60代の男女に対して行われました。
この調査の結果では「高齢者に家庭内でのヒヤリハット経験があるか」という質問に対して、全体の実に40.5%の人が「実際に危害経験がある」と回答しており、さらに危害経験に至らないまでも「ヒヤリハット経験がある」と答えた人は19.8%という結果になりました。
これらを総合してみると、実際に事故が起こってケガなどを経験した人を合わせれば、高齢者全体の約6割以上が自宅で危険な経験をしたということになります。これは多くの方にとって予想以上に高い数字ではないでしょうか。
もう少し詳しくアンケート調査の中身を見ていきましょう。この調査では、ヒヤリハットや事故を経験した人の年齢層の分布データも出しています。
まず、年齢別でのヒヤリハット経験者の分布自体は男女とも同じようになっているので、性別による大きな違いはないようです。
年齢別で見ると、ヒヤリハット経験者のうち、男性は70~74歳が全体の30.6%、75~79歳が21.2%、80~84歳が23.5%、85~89歳が15.8%となっています。
女性はというと、70~74歳が24.8%、75~79歳が19.5%、80~84歳が24.9%、85~89歳が21.6%となっています。
ここからわかることが、ヒヤリハットに遭遇した年齢層が男女とも同じく70~74歳と80~84歳で、この2つの年齢層が特に事故に遭いやすいということです。
70~74歳と80~84歳、この2つの年齢層で特に事故やヒヤリハット例が多いのはなんでだろう。
理由を推測してみるっポ。
まず、70~74歳代に関しては、まだまだ日常的に行動の活発な人が多いことが考えられます。介護保険サービスの利用者は80歳代から急激に増えるというデータをふまえると、70代に入ったばかりの人は持病や障害などがない場合、積極的に体を動かしている人がかなり多いのです。
ところが、身体能力や体の機能に関しては、筋力をはじめとして急激に低下する年代に入ります。そのため、自分の思い描くようには体がついていかないという現象が起こりがちです。
これくらいは大丈夫だろうといった思い込みで行動した結果、実際には体がなかなかついてこなかった、そして思わぬ転倒などの事故が発生してしまった、というケースが増える年代なのかもしれません。
では、80~84歳が多いのがなぜかを推測すると、この年代からは明らかに身体能力がガクンと落ちてくることがその原因だと思われます。要支援や要介護の認定を受ける人の割合が多くなるのもこの年代、介護保険サービスの利用者が急激に増えるのもこの年代からです。
自宅内であっても、手すりやバリアフリーはもちろん、場合によっては他人の助力なしには活動しづらいことも多いので、日常生活で必要となる動きそのものが困難になる人も増えます。そのため、この年代はヒヤリハットを経験する可能性が高くなっているのかもしれません。
高齢者にとって自宅で危険な場所がどこなのか、知りたいな。
高齢者が自宅でヒヤリハットした場所をランキング形式で紹介するっポ。
次に、実際に自宅のどこで高齢者がヒヤリハットに遭遇しているのかを見ておきましょう。自宅のどこが危険なのかを知っておけば、ヒヤリハット防止に役立ちます。
ここでは、東京都の調査データから判明した「上位5カ所」をランキング形式で紹介していきます。
この上位5カ所だけでもほぼ自宅のすべての箇所を網羅できてしまうのですが、自宅の意外な所でもケガの危険があることがわかるので、ぜひ参考にしていただきたいです。
70歳以上の親などを見守る人を対象にしたアンケート調査では、「ヒヤリハット経験がある場所」として34.2%の人が「ある」と回答したのが「リビング・居間」でした。
リビングや居間は一見危険が少なそうですが、そこがかえって油断につながっているのか、床やフローリング、敷物でヒヤリハットした人がかなり多いようです。
実際にリビングと居間でのヒヤリハット経験のうち、24.1%の人が「敷物」でつまずいた、14.7%の人が「床やフローリング」ですべったなどで転倒したと回答しています。
危険があるはずもないという「油断」と、小さな段差などでも転倒してしまう足腰の筋力低下、この2つの要因が合わさってリビングや居間でのヒヤリハット経験を生んでしまっているようです。
2番目に多いのが「玄関・階段・廊下」といった、動線の要となる場所でのヒヤリハット経験です。
「玄関・階段・廊下」でヒヤリハットを経験した高齢者の割合は全体の実に33.5%。そのうちほとんどの人が「ケガをした(しそうになった)」と回答している場所は、ズバリ「階段」です。
ケガの中身も当然というべきか、階段の踏み外しなどによる「転倒事故」がほとんどですが、ここで事故が起きると骨折やねん挫など、高齢者にとってはきわめて危険度の高いケガにつながります。
階段の次に多いのは玄関の「たたき部分」での転倒事故となっており、やはり「段差」が高齢者にとって大きな鬼門となってしまっていることが、データからも明白です。
3位は「台所・ダイニング」で全体の30.4%と、意外に高い数字です。この場所でのヒヤリハット経験の原因はガスレンジの扱いがほとんどを占めています。
一番多いのは「消し忘れ」、ついで「やけど」、そして「着衣着火」となっており、いずれも深刻な事故につながるおそれのある事例ばかりです。
次いで多いのは飲食物などの「誤嚥」、料理をする際の「調理器具での事故」などが続きます。
こうした事故は、特に高齢者に限らず起こりうるものですが、高齢に伴うもの忘れや嚥下機能の低下によって、ヒヤリハットが起こる可能性は高くなっているようです。
4位は風呂や脱衣所、洗面所、トイレといった水回りエリアで、ここでヒヤリハット経験のある人は全体の29.9%。
もっとも多い事例は風呂場の床での転倒です。濡れた床で滑ってしまったという転倒事故が圧倒的に多く、水回りでヒヤリハット経験した人の実に41.6%を占めています。
次いで「浴槽」と答えた人が32.2%と、ここでも浴槽への出入りの際に転倒したという事例が多いため、やはり高齢者にとって「段差」や「足回り」は本当に注意すべき場所なのだということが、データからもひしひしと読み取れます。
また、お風呂場での事故に関しては、冬場に多い「ヒートショック」の危険性も高いため、高齢者にとっては特に注意すべき場所であると考えておかなければなりません。
5位は「寝室・ベッド・寝具」がランクインします。一見「なぜここで事故が起こるのか」と疑問に感じられますが、ここでの事故のほとんどを占めるのがベッドからの転倒です。
またしても「段差」が高齢者のヒヤリハットを生んでいるという結果が見えてきました。
寝室でのヒヤリハット事例の実に半数近くが「ベッドでの転倒」という結果で、それ以外の事例となると、湯たんぽによるやけどなどのレアケースです。
就寝中や起床時に足がつってしまい転倒したという事例も多く、ベッドのような段差のない布団であっても、つますいて転倒してしまうことがあるようです。
これらのほかにヒヤリハットが起こるエリアは、ベランダや庭、自宅の周りのスロープや歩道、マンションの共用部分といったエリアが挙げられます。しかし、こうした場所での事故は、やはり「段差」による転倒がほとんどを占めます。
庭仕事などで脚立や屋根から落ちたという事故もありますが、鬼門となるのは「段差」です。自宅やその周りでは「段差あるところにヒヤリハットあり」と考えておいたほうがよさそうです。
転倒は介護の原因にもなりやすいんだ。しっかり対策することが大切だっポ。
介護の原因に!?それは大変だ!
自宅で起こりうるヒヤリハット経験のほとんどは「転倒」による事故です。2016年に厚生労働省が行った「国民生活基礎調査」で、高齢者の介護が必要となった主な原因として4番目に挙げられているのが「骨折・転倒」(12.5%)です(ちなみに1位は認知症、2位は脳血管疾患、3位は高齢による衰弱)。
病疾患や老衰以外では転倒・骨折が大きな介護要因となっていることがわかります。そこで、自宅での転倒が特に起きやすい場所をピックアップしておきましょう。
階段は上のほうで転倒すると下まで転げ落ちてしまう可能性もあり、大ケガをする危険性があります。家の中でも段差の続く場所で、バリアフリー化やスロープの設置などが難しい箇所です。
対策としては、手すりの設置や昇降用エレベーターの設置などが必要になるでしょう。
靴の履きかえなどでつまずきやすい玄関も要注意エリアといえます。夜の真っ暗な玄関で足元がよく見えずに転倒する事故が起きやすいので、常夜灯の設置などの対策が必要です。
リビングも転倒事故が多く、カーペットなどの小さな段差や足元の不安定な場所、テレビやオーディオのコード配線などにつまずいてしまう事例が後を絶ちません。
ほんの小さな段差やコードの配線1本でもつまずくリスクがあるので、できるだけ危険な場所のないように、足元を整理しておきます。
電源コードを歩く場所にはわせない、物を置かないなど、部屋を整理しておくことが重要です。また、カーペットの段差による転倒を防ぐために、室内の部分的なカーペットの使用はしないようにしましょう。
意外な鬼門となるのが寝室、特に事故が多いのはベッドです。ベッドの出入りに不安があるようなら、ベッドガードを設置する、あるいは寝具を布団に変更するといった対策が必須になってきます。
浴室では転倒事故も多く、その大きな原因となっているのが「濡れた床」です。
すべり止めの付いた素材へのリフォームや浴槽への出入りを補助する手すりの設置、せっけんやシャンプーの使用後は、お湯で流してしっかり乾燥させるといった工夫が必要になってきます。
お風呂に不安がある場合は、デイサービスで入浴したり状態によっては訪問入浴を利用したりするなど、介護保険サービスを検討してもよいかもしれません。
転倒事故のほとんどは、自宅に存在する段差で起こります。そのため、段差のある階段や玄関、浴室などには手すりやすべり防止のマットなどを設置して転倒を防ぎましょう。
また、部屋履きのスリッパにも注意が必要です。すべりやすい素材のものや足にフィットしていないスリッパは転倒リスクが大きいので、安全性の高い、履きやすいものを選んでおきましょう。
かかと部分がないスリッパは脱げやすいため、かかとのある部屋履きにすると転倒のリスクが低下します。
転倒事故が起こりやすいのは、下半身の筋力低下も大きく影響しています。人間の全筋肉の7割近くは下半身に集中しているのですが、加齢とともにこの下半身の筋力が急激に落ちていくのです。
したがって、無理のない範囲で構わないので、スクワットやかかと上げ、健康体操などを定期的に行って、意識的に下半身を強化しておくとケガのリスクを下げることができます。
また、高齢者は筋力の低下によって、つま先が上がらなくなる「すり足歩行」になる人が増えます。足の上がらない「すり足歩行」では小さな段差でつまずきやすくなります。バランスを崩して前につんのめることもあり、顔面などを強打する事故が起こりやすいです。
そこで、こうした「すり足歩行」を少しでも改善するために「背筋を伸ばして歩く」「つま先を意識的に上げてかかとから着地する」「膝を上げる感覚で歩く」といった点を意識しておきましょう。
この3点を意識しながら歩くだけで、転倒に直結する危険な「すり足歩行」はかなり改善されるはずです。
高齢者のヒヤリハット経験や事故でもっとも多いのは転倒だけど、浴室には別の危険もあるっポ。
安全にリラックスしてお風呂に入りたいから「別の危険」も教えてほしいな。
「浴室」での危険は命にかかわるケースもあります。少しの準備で重大な事故のリスクを下げることができるので、やるべきことを挙げておきましょう。
お風呂場では転倒の危険を防ぐことが重要ですが、もう1つ大事なことがあります。それは高齢者の入浴時、特に冬場に遭遇しやすい「ヒートショック」を防ぐための工夫です。
外気との急激な温度変化に体が対応できず、心不全などの症状を起こして気を失うという現象で、きわめて危険な状態に陥ることも少なくありません。
冬場は入浴前に湯をためた浴槽のふたを半分あけるなどして、脱衣所や浴室を暖めておきましょう。また、食後やアルコール摂取後すぐの入浴を避けること、長湯や高温浴を避けることも大事です。
入浴時間が不自然に長い場合は事故の危険性があるので、同居する家族はこまめに声掛けするなどの対策も必要です。
高齢者が自宅でヒヤリハットに遭遇してしまう事例は増えているっポ。特に気をつけたいのが段差のある場所での転倒。
リビングや寝室とか、一見安全そうな場所でも思わぬところでつまずいてしまうことがあるから、あらかじめ事故が起こらないように対策を取っておくことが重要なんだ。
重大な事故にならないように、危険だと思われるところは早めに対策、予防をしておこうね。
<参考資料>
平成28年度ヒヤリ・ハット調査「シニア世代における一人及び二人暮らしの身の回りの危険」調査報告書 (東京都生活文化局消費生活部)
著者:かぼじん
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