「介護福祉士」は、介護職唯一の国家資格です。2000年からスタートした介護保険制度によって、介護の現場は様変わりしました。措置制度の時代と比べて質の高いサービスが提供されるようになり、介護福祉士の資格を持つ人の需要も高まっています。
しかし介護福祉士資格を取得するためには、国家試験を受験し合格しなければなりません。ここでは、介護福祉士試験の合格基準、試験内容、合格率の推移など、最新情報を詳しく解説します。
介護福祉士とはどんな資格なのかな?
介護職の資格には、「介護職員初任者研修」や「実務者研修」などがあります。そのなかで、唯一の国家資格が「介護福祉士」です。
介護福祉士は、介護を必要とする高齢者や障害者の身体介護はもちろん、健康管理を行ったり家族の相談にのったりして要介護者やその家族の生活を支えます。
豊かな感性や正しい知識を持ち合わせ、プロの視点で洞察や分析ができる能力が求められます。
介護福祉士国家試験の受験資格を取得するには、介護福祉学科のある学校に2年間通う、介護福祉系の施設で3年以上働き「介護福祉士実務者研修」を受ける、などの必要があります。
2017年からより質の高い介護サービスを提供するため、実務者研修の修了が必須となりました。
国家資格を保有してたら自慢できそうね!
介護福祉士の資格を取得すると、給与面でもメリットがありそうだっポ!
多くの人が気になるのは、介護福祉士とヘルパー(ここでは、介護職員初任者研修修了者のこと)との違いではないでしょうか。
施設や利用者宅で要介護者の介護をするという業務内容には、介護福祉士もヘルパーも大差ありません。しかし、介護福祉士は国家資格なのでヘルパーよりも知識や技術があると捉えられます。
そのため、他のヘルパーの指導をしたり、現場をまとめたりする介護現場の責任者として活躍する人が多いです。
さらに、介護福祉士とヘルパーでは給与面にも差があります。介護福祉士を保有していると、資格手当や特定処遇改善手当がついたり、役職手当(役職に就いている場合)がついたりするためです。
その結果、介護福祉士とヘルパー(介護職員初任者研修修了者)の平均賃金には、約2万8,000円の差があることが2021年の厚生労働省の調査でわかっています。
介護福祉士は、特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)、認知症グループホームなどの施設サービスはもちろん、デイサービスや訪問介護等の居宅サービスの場でも活躍しています。そのほか、障がい者施設や社会福祉協議会に勤務することも可能です。
福祉業界を支える介護福祉士は、介護現場での需要も高いため就職先に困ることはないでしょう。
スキルアップするなら取っておきたい資格ね!
第35回試験の合格者の傾向を紐解くっポ!
第35回介護福祉士国家試験は、筆記試験2023年1月29日(日曜日)、実技試験3月5日(日曜日)に実施され、合格発表は年3月24日(金曜日)に公益財団法人社会福祉振興・試験センターホームページにて行われました。
7万9,151人の受験者のうち合格者は6万6,711人、合格率は過去最高の84.3%で、合格者のうち経済連携協定(EPA)に基づく外国人は754名となっています。
合格者の男女比を見てみると、男性1万9,955人、女性4万6,756人とあり、合格者の70.1%が女性です。
20代から40代の合格者が多い中、61歳以上の合格者も2,782人いました。
第35回の合格率は前年の72.3%から84.3%と大きく上昇したものの、受験者数は減少しています。介護現場の人手と介護福祉士の受験者数は比例する傾向にあるため、受験者数を増やすことも今後の課題といえそうです。
60代を超えても資格取得できるなんて夢があるわね!
過去の推移から読み取れることがあるっポ。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
第1回(1989年・平成元年) | 1万1,973人 | 2,782人 | 23.2% |
第2回(1990年・平成2年) | 9,868人 | 3,664人 | 37.1% |
第3回(1991年・平成3年) | 9,516人 | 4,498人 | 47.3% |
第4回(1992年・平成4年) | 9,987人 | 5,379人 | 53.9% |
第5回(1993年・平成5年) | 1万1,628人 | 6,402人 | 55.1% |
第6回(1994年・平成6年) | 1万3,402人 | 7,041人 | 52.5% |
第7回(1995年・平成7年) | 1万4,982人 | 7,845人 | 52.4% |
第8回(1996年・平成8年) | 1万8,544人 | 9,450人 | 51.0% |
第9回(1997年・平成9年) | 2万3,977人 | 1万2,163人 | 50.7% |
第10回(1998年・平成10年) | 3万1,567人 | 1万5,819人 | 50.1% |
第11回(1999年・平成11年) | 4万1,325人 | 2万758人 | 50.2% |
第12回(2000年・平成12年) | 5万5,853人 | 2万6,973人 | 48.3% |
第13回(2001年・平成13年) | 5万8,517人 | 2万6,862人 | 45.9% |
第14回(2002年・平成14年) | 5万9,943人 | 2万4,845人 | 41.4% |
第15回(2003年・平成15年) | 6万7,363人 | 3万2,319人 | 48.0% |
第16回(2004年・平成16年) | 8万1,008人 | 3万9,938人 | 49.3% |
第17回(2005年・平成17年) | 9万602人 | 3万8,576人 | 42.6% |
第18回(2006年・平成18年) | 13万34人 | 6万910人 | 46.8% |
第19回(2007年・平成19年) | 14万5,946人 | 7万3,606人 | 50.4% |
第20回(2008年・平成20年) | 14万2,765人 | 7万3,302人 | 51.3% |
第21回(2009年・平成21年) | 13万830人 | 6万7,993人 | 52.0% |
第22回(2010年・平成22年) | 15万3,811人 | 7万7,251人 | 50.2% |
第23回(2011年・平成23年) | 15万4,223人 | 7万4,432人 | 48.3% |
第24回(2012年・平成24年) | 13万7,961人 | 8万8,190人 | 63.9% |
第25回(2013年・平成25年) | 13万6,375人 | 8万7,797人 | 64.4% |
第26回(2014年・平成26年) | 15万4,390人 | 9万9,689人 | 64.6% |
第27回(2015年・平成27年) | 15万3,808人 | 9万3,760人 | 61.0% |
第28回(2016年・平成28年) | 15万2,573人 | 8万8,300人 | 57.9% |
第29回(2017年・平成29年) | 7万6,323人 | 5万5,031人 | 72.1% |
第30回(2018年・平成30年) | 9万2,654人 | 6万5,574人 | 70.8% |
第31回(2019年・平成31年) | 9万4,610人 | 6万9,736人 | 73.7% |
第32回(2020年・令和2年) | 8万4,032人 | 5万8,745人 | 69.9% |
第33回(2021年・令和3年) | 8万4,483人 | 5万9,975人 | 71.0% |
第34回(2022年・令和4年) | 8万3,082人 | 6万0,099人 | 72.3% |
第35回(2023年・令和5年) | 7万9,151人 | 6万6,711人 | 84.3% |
第1回の合格率こそ23.2%と低い結果でしたが、その後の合格率はおおむね50~60%を推移しています。2023年の第35回では84.3%と過去最高の合格率でした。
そのため、数ある国家資格の中では比較的合格しやすい資格といえるでしょう。
2000年に介護保険制度がスタートしたことによって、介護福祉士の認知度や需要が高まり、第28回までの受験者数は15万人台まで増加しました。ところが、2017年に実施した第29回の受験者数は7万人台まで減少しています。
これには、2016年に行われた受験資格の改定が関係していると考えられます。
この改定によって、受験には3年以上の実務経験に加えて、介護福祉士実務者研修の修了が必須となりました。
ここで受験者のさらなる壁となるのが、受講費用や研修時間の問題です。実際、研修費用がかかることや研修時間が取れないことを理由に受験を諦める人もいます。
この点は大きな課題といえるでしょう。
一方、人材確保を目的とする「特定処遇改善加算」が2019年10月から導入されました。勤続10年以上の介護福祉士の賃金を月額約8万円上乗せする、もしくは年収を440万円以上にするというものです。
これによって、介護福祉士資格の人気が高まり、2020年度の受験者数の増加が期待されました。
しかし、第32回の受験者数は8万4,032人と例年よりも少なく、想定していたような増加には結びつきませんでした。
特定処遇改善加算は10年以上勤務するベテラン介護福祉士を対象としているため、新規で働く介護職員の目には「あまり関係ない話」として映っているのかもしれません。
たしかに研修にかかる費用や時間は大きな負担になりそうね。これから介護が必要な高齢者がもっと増えるから介護福祉士も増えてほしいわ。
介護福祉士の試験にはどんな問題がでるのかな……?ドキドキだっポ。
介護福祉士国家試験は、5つの答えの中から正解を選択するマークシート方式です。
出題基準は以下13の科目となります。
介護保険制度や介護サービスの基本だけでなく、実際の介護現場で起こり得る利用者の対応について問われる問題もあります。
たとえば、ケースごとの利用者に対する適切なサービスの選択や、利用者が発した言葉へのプロとしての返答が問われる問題です。
ではここで、実際の第32回試験問題の中から1問を例に挙げてみましょう。
問題18:Gさん(80歳、女性、要介護3)は、脳卒中(stroke)の後遺症により左片麻痺があり、からだを思うようにコントロールができず、ふらつきが見られる。以前は、2週間に一度は美容院で長い髪をセットしてもらい、俳句教室に行くのを楽しみにしていた。病気になってからは落ち込むことが増え、介護が必要になったため、介護老人福祉施設に入所した。ノーマライゼーション(normalization)の考え方を踏まえた、Gさんへの生活支援として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 洗髪しやすいように、長い髪のカットを勧める。
2 共同生活のため、夕食は施設の時間に合わせてもらう。
3 落ち込んでいるため、居室での生活を中心に過ごしてもらう。
4 おしゃれをして、施設の俳句クラブに参加するように勧める。
5 転倒予防のため、車いすを使用してもらう。(公益財団法人社会福祉振興・試験センターPDFより引用)
この問題のポイントは、「ノーマライゼーション(normalization)の考え方を踏まえた、Gさんへの生活支援」という点です。
ノーマライゼーションとは、「障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともにいきいきと活動できる社会を目指す」(厚生労働省ホームページより)といった理念で、障害者ではなく周りが変わるという意味もあります。
1の答えは、長い髪のセットを楽しみにしていたGさんの気持ちに寄り添えていません。
2の答えは、問題内に夕食の話が一切出ていないため違います。
3の答えは、余計にGさんが落ち込んでしまいそうです。
5の答えは、介護の基本である自立支援の観点から間違っています。
よって、この問題の正解は「4 おしゃれをして、施設の俳句クラブに参加するように勧める」です。
Gさんの気持ちに寄り添い、施設内でできる範囲の支援をするのが正解となります。
この問題のように文章を読み込むと解ける問題も多いです。
合格率も高いので、しっかり勉強をすれば合格も叶うでしょう。
難しいけど、この問題は利用者さんの気持ちに寄り添って考えれば、私でも何とかわかりそうだわ。
この合格基準なら、がんばれば介護福祉士国家試験合格も夢じゃないっポ。
介護福祉士国家試験は125問、各1点のマークシート方式です。全体の60%程度を基準として正解すると合格となります。75点以上が基準となり、第35回では補正により75点が合格基準でした。
加えて、以下11科目群のすべてにおいて得点しなければなりません。
つまり、全体で75点を取っていても0点の科目群が1つでもあれば不合格になってしまいます。
筆記試験をクリアした人は実技試験に進みます。実技試験の場合も全体の60%程度が合格基準です。第35回は課題の難易度で補正し、100点満点中53.33点以上が合格点でした。
60%程度が基準なのね!
2024年(第36回)試験の詳細は以下だっポ。
第36回の介護福祉士国家試験の日程は以下の通りです。
筆記試験 2024年(令和6年)1月28日(日曜日)
実技試験 2024年(令和6年)3月3日(日曜日)
受験申し込みの受付期間は、2023年8月9日(水)から9月8日(金)まで(消印有効)。
初めて受験する方は郵送での申し込みが必要ですが、2回目以降の方は条件にあてはまればインターネットでの申し込みも可能です。
合格者や合格基準は、2024年3月25日(月)の午後に社会福祉振興・試験センターのホームページにて発表されます。
受験申込には事前に『受験の手引』を取り寄せなくてはいけないので、できるだけ早く請求するようにしましょう。
また、受験には受験手数料が必要です。第35回は1万8,380円でした。費用も準備しておきましょう。
第36回の試験地は以下となります。
筆記試験
北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、福島県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、石川県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県
実技試験
東京都、大阪府
受験するなら早めに申し込みしないとね!
介護現場において、介護福祉士は引く手あまたです。そのため、この先も介護職として働き続けるなら、就職先に困らない介護福祉士の資格取得をおすすめします。
国家資格でありながら合格率の高い介護福祉士は、しっかりと試験対策を行えば合格も夢ではありません。
受験資格がある人は、介護福祉士国家試験に挑戦してみてはいかがでしょうか。
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