自民党と公明党のすり合わせが順調に進み、議員立法の「認知症基本法案」が今国会へ提出されることになった。早ければ年内にも成立する可能性がある。関係者の期待は大きい。
基本法案を制定する動きが加速した背景には、認知症が新たな“国民病”となっている現状がある。高齢化に伴い認知症の人、あるいはその予備軍とみられる人は増加している。この傾向は今後もしばらく続いていく見通しだ。国としての基本的な考え方や関係者の責務、力を入れるべき取り組みなどをここで改めて明確にすることで、支援策の充実に結びつけていく狙いがある。
4日の自民党の厚生労働部会では、基本法案の全容が始めて明らかにされた。どんな中身になっているのか? 2回に分けて紹介する。まずは前半部分、基本的な考え方や関係者の責務などについてまとめていく。
「認知症の人が尊厳を保持しつつ社会の一員として尊重される社会の実現」。
これが基本法案に書かれている目的だ。施策の基本理念として掲げられたのは6項目。以下に全文を掲載する。当事者との「共生」をとりわけ大事にしていること、本人だけでなく家族への支援も重視していることなどがポイントだ。
基本法案で次に出てくるのが関係者の責務だ。
国と自治体は、上記の基本理念に則って施策を推進しなければいけない。政府に対しては、施策を実施するために必要な法制上、財政上の措置を講じるよう指示。自治体には地域の実情に応じた施策の展開を要請している。
事業者、あるいは国民の責務にも言及。医療・介護サービスを提供する場合、「国や自治体の施策に協力すること」「良質かつ適切なサービスの提供に努めること」が求められるとした。
「事業の遂行に支障のない範囲で、認知症の人に対し必要な配慮をするよう努めなければならない」
公共交通機関や金融機関、小売業などの責務だ。日常生活・社会生活の基盤となるサービスを担う事業者が広く対象となる。
国民の責務としては、「認知症に関する正しい知識を持ち、認知症の予防に必要な注意を払うよう努める」「認知症の人に対し必要な配慮をするよう努める」の2点が記載された。認知症への理解や関心を深める観点から、毎年9月を「認知症月間」と位置付け、世界アルツハイマーデーの9月21日を「認知症の日」とすることも盛り込まれた。
基本法案は政府に対し、施策の総合的な推進を図るための「基本計画(認知症施策推進基本計画)」の策定を義務付けるとした。重要な柱となる規定の1つだ。
「基本計画」には原則として、施策の具体的な目標やその達成時期などを含めないといけない。目標の達成状況を適時に調査し、その結果をインターネットなどで広く公表することも求められる。「少なくとも5年ごとに基本計画に検討を加え、必要があると認める時は変更しなければならない」とも記載された。
「基本計画」をまとめるのは、全ての閣僚で構成する「認知症施策推進本部」。トップは内閣総理大臣で、官房長官や厚生労働大臣が副本部長を務めるという。内容を詰めていくプロセスでは、認知症の人や家族など当事者の意見を聞く決まりとなっている。
都道府県と市町村には、国の「基本計画」に沿った計画(認知症施策推進計画)を策定する努力義務を課す。実際に計画を作る際は、介護保険事業計画などとの調和に配慮すべきと指摘されている。
法律の施行期日は、公布の日から半年を超えない範囲で政令で定める日。法案の附則には国の「基本計画」と同様に、「この法律の施行後5年を目処として施行状況について検討し、その結果に基づいて所要の措置を講じるものとする」と書かれている。
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