現場の感染症や災害への対応力を高めるためにはどうしたらいいか? 厚生労働省は4日、来年4月の介護報酬改定を議論している審議会でそう投げかけた。【青木太志】
次の改定ではこのテーマを、全てのサービスに共通するコンセプトの1つに位置付けると説明。平時から取り組みの強化を促す方向で運営基準を見直したり、施設・事業所に業務継続計画(BCP)の策定を求めたりするたたき台を提示し、これから年末にかけて具体策を詰めていく方針を打ち出した。
多くの委員が異論を唱えず、代わりに報酬の引き上げを注文した。現場の人手不足は既に深刻で、相応の後押しがなければタスクを増やしても進められない。職員の負担をいたずらに重くすることにもなりかねないため、具体策は報酬増とセットにすべきとの声が相次いだ。
厚労省も委員の問題意識を理解しているが、財源をどれだけ確保できるかは最後まで分からない。次の改定に投じる額を政府・与党が決めるのは年末。感染症や災害への対応力を高めることの重要性を訴えていくとみられるが、コロナ禍で支援を必要としている業界は他にもある。期待に十分応えられるかどうかは不透明だ。
感染症や災害が発生しても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に提供される体制を作り上げる − 。
厚労省が会合で掲げた目指すビジョンだ。今後の検討の方向性としては、「日頃からの発生時に備えた取り組み、発生時の業務継続に向けた取り組みを推進する」「各事業所でBCPの策定を進めていく」などが示された。
大きな論点は運営基準の厳格化だ。施設・事業所に課す義務、努力義務を広げる案が取り沙汰されている。
例えば感染症対策。特養などの施設には委員会の開催、指針の整備などの義務があるが、通所系、訪問系は特に求められていない。一方の災害対策では、グループホームや小規模多機能で地域住民との連携が努力義務とされているが、居宅介護支援や訪問系にはこうした規定がない。また、施設・事業所にBCPの策定を新たに義務付けるよう促す声もあがっている。
こうした論点をめぐり、全国町村会の椎木巧副会長(周防大島町長)は、「人的余裕がなく日頃から感染症や災害に備えるのは困難。継続的で丁寧な支援が欠かせない」と指摘。日本看護協会の齋藤訓子副会長は、「平時からの備えは非常に重要だが、恒常的な取り組みとするためには報酬上の評価が必要」と意見した。
全国老人保健施設協会の東憲太郎会長は、「運営基準を厳しくするなら、それに見合うよう基本報酬を引き上げて欲しい」と主張。神奈川県の黒岩祐治知事の代理で参加した同県・高齢福祉課長は、「感染症対策などに取り組む事業所が取れる加算を作り、インセンティブを設けることで底上げを図れるのではないか」と述べた。
厚労省はこれらを掘り下げ、今秋にも具体策の一部を提案するとみられる。
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